专利摘要:
本発明は、リガンド特異的又は抗原特異的結合タンパク質を同定及び単離するため、脊椎動物宿主細胞内においてインビトロで抗体又はその断片などの結合タンパク質の多様なコレクションを生成、発現及びスクリーニングするための新規方法を開示する。本明細書に開示される方法により、少なくとも1つのベクターコンストラクトから結合タンパク質の多様なコレクションを発現させることが可能となり、場合により、脊椎動物宿主細胞に導入してインサイチュで発現させると、多様な結合タンパク質のコレクションが生じ得る。
公开号:JP2011512825A
申请号:JP2010549052
申请日:2009-03-04
公开日:2011-04-28
发明作者:ウルフ グラヴンダー;ヨーン シュティッツ
申请人:4−アンチボディ アーゲー;
IPC主号:C12N15-09
专利说明:

[0001] 本発明は、脊椎動物細胞内においてインビトロで結合タンパク質の多様なコレクションを生成、発現、及びスクリーニングするための新規方法を開示し、これによりリガンド反応性又は抗原反応性結合タンパク質の同定及び単離が可能となる。特に、本発明は、所望の抗原又はリガンドに対して特異的な、例えば抗体又はその断片などの結合タンパク質をコードする少なくとも1本のヌクレオチド配列をレトロウイルスにより発現させて、単離し、及び同定するための方法に関する。]
背景技術

[0002] ディスプレイ技術は、極めて多くの障害及び疾患における診断及び治療用途の特定の高親和性結合タンパク質の単離において、重要な役割を果たしている。こうした技術は、抗体工学、合成酵素、プロテオミクス、及び無細胞タンパク質合成といった広範な分野に及ぶ。生体分子のディスプレイ技術は、モジュール単位でコードされる生体分子の大規模なプールの構築、特性選択のためのそれらの提示、及びそれらの構造の迅速な特性決定(解読)を可能とするもので、タンパク質多様性の獲得及び分析を大規模に行うのに特に有用である。最近では、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ及び微生物ディスプレイによる抗体の単離から、インビトロディスプレイ技術がひときわ認知されるようになっており、今や抗体工学及びタンパク質工学の主流のプラットフォームとなっている。しかしながら、微生物による発現及び提示系は、特に、抗体のような大型の二量体脊椎動物タンパク質の発現については、制約を被る。これは、かかる発現系では、操作された抗体断片の提示が必要であるのに一般に完全長抗体を発現できないことが原因であると同時に、グリコシル化の欠如、シャペロンタンパク質の不在、細胞内コンパートメントの欠如、及び真核細胞特異的タンパク質輸送(これらは、個々に、及びまとまって、微生物により発現する哺乳類タンパク質にタンパク質フォールディングのアーチファクトをもたらす)も原因である。最近では、酵母、植物及び哺乳類細胞を含む真核宿主細胞を用いるインビトロディスプレイ法も開発されている。酵母及び植物細胞発現系もまた、グリコシル化の欠如並びに特定の脊椎動物及び哺乳類細胞に特異的なシャペロンの欠如を被り、従って、かかる系における脊椎動物タンパク質の発現には、タンパク質フォールディングに関して同じ制約が該当する。抗体のような大型の組換えタンパク質の発現、適切なタンパク質フォールディング及び翻訳後修飾は、理想的には系統的に最も近縁の細胞系内でタンパク質を発現する、脊椎動物発現系においてのみ、妥当な効率性及び品質で起こると予想され得る。]
[0003] 従って、げっ歯類又はヒト由来の抗体のように治療上有益なタンパク質は、理想的にはげっ歯類又はヒトの細胞内で発現されるとともに、臨床級の治療用完全長抗体の産生に、かかる種由来の発現系のみが規制当局によって認可されることは当然である。しかしながら、脊椎動物及び哺乳類の細胞をベースとする発現系は手間がかかり、安定的に産生する細胞系及びクローンを樹立するのに必要なタイムフレームが長く、且つかかる細胞の効率的で制御された遺伝子改変は多くの場合に単純ではないため、こうした系はスクリーニング及び提示の方法としてはそれほど魅力的なものとはならない。例えば、DNAトランスフェクション法は、トランスフェクト細胞に一時的に、或いは安定的に組み込むDNAコンストラクトの数を制御することができず、タンパク質ライブラリ、従って純粋な遺伝子のクローン発現による表現型スクリーニングが妨げられる。代替的なウイルス系は、クローン発現の適切な制御、遺伝子コンストラクトの安定的な維持が欠如しているか、及び/又はかかる系は標的細胞に細胞変性効果(例えばワクシニアウイルス発現)を引き起こすことが多いという事実を被り、従ってタンパク質クローンは、例えば、抗原に対する特異的結合性などの特定の表現型について、提示することができないか、及び/又は連続的に濃縮することができない。]
発明が解決しようとする課題

[0004] 従って、本発明の目的は、先行技術の原核生物及び真核生物遺伝子発現系及び選択系についての上述した制約及び欠点を全て明確に克服する方法を提供することである。本発明に係る方法は、特に、哺乳類細胞、特にBリンパ球細胞系における抗体などの結合タンパク質の安定したレトロウイルス発現を利用するものであり、それにより、適切なグリコシル化、シャペロンタンパク質及びタンパク質輸送があるなかでの抗体タンパク質の安定発現、好ましくはクローン発現が実現され、適切なタンパク質フォールディングが確実に起こるとともに、抗原結合性の抗体クローンについての効率的な、且つ必要であれば反復的なスクリーニングが可能となる。本発明に係る方法の好ましい実施形態は、前駆リンパ球内での抗体又はその断片のレトロウイルス発現に基づくことから、本明細書に開示される技術を、「レトロ細胞ディスプレイ(Retrocyte Display)」(レトロウイルスプレBリンパ細胞ディスプレイ(retroviral preB lymphocyte display)による)と称する。]
課題を解決するための手段

[0005] 本発明は、概して、治療用又は診断用抗体又はその断片の提供に関する。特に、本発明は、治療用途に有益な、完全ヒトアミノ酸配列を有する抗原反応性抗体の同定及び選択に関する。本発明の実施形態は、脊椎動物細胞、好ましくは哺乳類細胞内で抗体又はその断片を含む結合タンパク質の多様なコレクションを発現可能とするレトロウイルス発現ベクター、及びリガンド反応性又は抗原反応性分子の効率的な単離方法を含む。本発明は、3つの代替的な方法により、抗体又はその断片などの結合タンパク質の多様なコレクションを生成するための新規方法を提供する。第一には、軽鎖又は重鎖の多様なコレクション(ライブラリ)に対する少なくとも1個の重鎖又は軽鎖分子の鎖シャフリング(chain shuffling)によるものであり(鎖シャフリング手法)、又は第二には、インサイチュでの脊椎動物細胞へのレトロウイルス形質導入後に、レトロウイルスにより形質導入した発現コンストラクトの体細胞突然変異により、抗体重鎖と軽鎖との少なくとも1つの組み合わせを多様化させることによるものであり(体細胞突然変異手法)、又は第三には、抗体の可変結合ドメインのコード領域であって、「準生殖細胞系(quasi−germline)」配置にある、すなわち、V、場合によりD及びJ遺伝子セグメントになお分かれているコード領域を含む、レトロウイルスにより形質導入した発現コンストラクトの、V(D)J組換えによるものである(V(D)J組換え手法)。抗体又はその断片を含む結合タンパク質の多様なコレクションは、上述の方法を任意に組み合わせることによっても生成され得ることが理解されるべきである。好ましくは、前記結合タンパク質又は抗体若しくはその断片は、前駆リンパ球の表面に提示される。]
[0006] 本発明は、特に、レトロウイルス形質導入を用いて、脊椎動物細胞内で結合タンパク質、好ましくは抗体の多様なコレクションを安定発現、場合によりクローン発現させる方法を提供し、それにより、当該技術分野において公知の、プラスミドベース又は組込みのないウイルスベースの代替的な脊椎動物発現系と比較して、結合タンパク質コード遺伝子の増幅、単離、及びクローニングが大幅に促進される。代表的な、しかし非限定的な例として、内因性抗体を発現することができず、従って宿主細胞において膜結合型抗体として異種の組換え抗体しか発現しないマウス前駆リンパ球のレトロウイルス形質導入が開示される。さらに、本発明は、抗原反応性の結合細胞の集団について繰り返し濃縮し、続いてそこから、抗原反応性又はリガンド反応性の結合タンパク質をコードする遺伝子を、当該技術分野において公知の標準的な分子生物学的手順によってクローニング及び配列決定することができるように、リガンド反応性又は抗原反応性の結合タンパク質、例えば抗体又はその断片を発現する細胞を、どのように単離し、場合によりインビトロで増殖させることができるかについて説明する(図1)。] 図1
[0007] 本発明に係る方法の好ましい実施形態は、結合タンパク質、好ましくはヒト完全長抗体のレトロウイルス発現に関するが、これは、その任意の断片(例えば、抗体の単鎖Fv又はFab断片)の発現に対しても同様に用いることができる。レトロウイルス形質導入プロトコルが開示され、これは、場合により、(i)宿主細胞内での結合タンパク質のクローン発現を確実にするための、単一の結合タンパク質をコードするコンストラクトの単一の標的細胞への送達;(ii)第1のポリペプチド鎖をコードする少なくとも1つの発現コンストラクトと、第2のポリペプチド鎖をコードする少なくとも1つの発現コンストラクトとのシャフリングと、それによる機能的多量体結合タンパク質(例えば、抗体分子)の生成;(iii)インサイチュで脊椎動物細胞に形質導入したときの、少なくとも1つの結合タンパク質をコードする少なくとも1つの発現コンストラクトの体細胞突然変異;及び(iv)インサイチュで脊椎動物細胞にレトロウイルス形質導入したときの、V(D)J組換え機構による少なくとも1つの発現コンストラクトからの結合タンパク質発現の生成、を可能とする。]
[0008] 結合タンパク質をコードするコンストラクトのインサイチュでの体細胞突然変異を実現するため、レトロウイルス発現ベクター及びそれらの利用法が開示され、ここで、前記ベクターは、タンパク質コード配列を標的として体細胞超突然変異を生じさせるシス調節遺伝子要素を含み、これは、好ましくは活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)経路を介するか(Papavasiliou & Schatz,2002)、又は結合タンパク質コード配列を標的として体細胞突然変異を生じさせる他の酵素を用いることによるものである。結合タンパク質、好ましくは抗体又はその断片の多様なコレクションを、インサイチュでV(D)J組換えにより生成するための、レトロウイルスベクターコンストラクト及びその利用法が開示され、ここで、前記コンストラクトは、「準生殖細胞系」配置に配列された、可変部(V)、場合により多様性(D)、及び接合部(J)遺伝子セグメントを含み、V(D)J組換えとして公知のプロセスにより遺伝子セグメントが組換え活性化遺伝子(RAG)の媒介によって再配列されることを通じて、免疫グロブリン又は免疫グロブリン様結合タンパク質のコード領域を構築することが可能である(Grawunder et al.,1998)。]
[0009] さらなる態様に従えば、本発明は、組換え結合タンパク質の多様なコレクションを安定的に発現するレトロウイルス形質導入細胞を、続いて少なくとも1つの対象のリガンド又は抗原と結合することにより標識する方法、及び前述の対象のリガンド又は抗原と結合する細胞を、適当な二次試薬により検出する方法についてさらに説明する。好ましくは高速蛍光活性化細胞分取(FACS)により、リガンド反応性又は抗原反応性細胞を特異的に標識し、及びそれらを濃縮又は単離するための方法が開示される。レトロウイルス形質導入細胞は安定発現の表現型であるため、場合により抗原反応性細胞を単離し、組織培養で再び増殖させてもよく、それにより、場合により、抗原の標識と、抗原特異的な濃縮と、リガンド反応性又は抗原反応性細胞の増殖との反復サイクルを実施することができ、最終的に細胞のサブクローニングを実施し、標準的なPCRクローニング法により抗原反応性抗体のヌクレオチドコード領域を同定することが可能となる方法について記載される(図1)。] 図1
[0010] 本明細書に開示される方法は、少なくとも1つのベクターコンストラクトから抗体鎖又はその断片の多様なコレクションを発現させることが可能であり、このベクターコンストラクトは、脊椎動物細胞にインサイチュで導入し、発現させると、場合により多様な結合タンパク質のコレクションを生じ得る。脊椎動物細胞内での抗体鎖の発現は、好ましくはレトロウイルス形質導入によって媒介される。]
[0011] そのため、本発明の第1の態様は、所望の抗原又はリガンドに対して特異的な抗体又はその断片をコードする少なくとも1本のヌクレオチド配列を単離及び同定する方法に関し、この方法は、
(a)抗体又はその断片をコードする少なくとも1つのレトロウイルス発現コンストラクトを脊椎動物宿主細胞に形質導入するステップと、
(b)前記抗体又はその断片を前記脊椎動物宿主細胞内で発現させるステップと、
(c)前記抗体又はその断片を発現する脊椎動物宿主細胞を、前記所望の抗原又はリガンドと結合するその能力に基づき濃縮するステップと、
(d)レトロウイルスで形質導入し、濃縮した脊椎動物宿主細胞から、前記抗体又はその断片をコードする前記少なくとも1本のヌクレオチド配列を単離及び同定するステップと、
を含む。]
[0012] 前述のステップに加え、ステップ(d)の前に、濃縮した脊椎動物宿主細胞を組織培養で増殖させるステップがあってもよい。さらに、ステップ(c)の後に、濃縮した脊椎動物宿主細胞を組織培養で増殖させるステップがあって、その後、ステップ(d)が実行される前に、ステップ(c)が少なくとも1回繰り返されてもよい。]
[0013] 少なくとも1つの抗体のクローン発現を実現するためには、レトロウイルスが形質導入した細胞の大部分が、宿主細胞ゲノムに組み込む抗体鎖1本につき1つのみの組換えレトロウイルスコンストラクトによって遺伝的に改変されるようにして、レトロウイルス形質導入を制御することが好ましい。従って、本発明の一実施形態において、レトロウイルス形質導入は0.1以下の感染多重度(MOI)で実施される。]
[0014] 本発明の方法に係る抗体は、好ましくは完全長抗体である。抗体の断片は、重鎖、軽鎖、単一のVHドメイン、単一のVLドメイン、scFv断片、Fab断片、及びF(ab’)2断片からなる群から選択され得る。抗体又はその1つ若しくは複数の断片は、天然に存在するアミノ酸配列か、人工的に操作されたアミノ酸配列か、又はそれらの組み合わせを有し得る。]
[0015] 本発明の方法は、好ましくは、抗体鎖をコードする少なくとも1本のヌクレオチド配列の単離及び同定に用いられるが、当業者には、本発明の方法が、Igスーパーファミリーに属する任意の単量体若しくは多量体細胞表面受容体、及びその任意の機能的断片、又はTNFα受容体スーパーファミリーに属する単量体若しくは多量体細胞表面受容体、若しくはその任意の断片をコードする少なくとも1本のヌクレオチド配列の単離及び同定にも用いられ得ることは明らかであろう。]
[0016] さらに、結合タンパク質が完全長抗体である場合、その完全長抗体は、完全ヒト抗体と、1つ又は複数の非ヒト抗体のCDR領域がヒト抗体フレームワークにグラフトされたヒト化抗体と、ある脊椎動物種由来の可変領域ドメインが別の脊椎動物種の定常領域ドメインと組み合わされるキメラ抗体であって、その定常ドメインが、好ましくは1つ又は複数のヒト抗体に由来するキメラ抗体とからなる群から選択される。]
[0017] 本明細書に開示される方法のある実施形態において、脊椎動物宿主細胞は、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類及び哺乳類を含む種の群に由来し得る。哺乳類種の群には、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ及びげっ歯類が含まれ得る。さらにげっ歯類の群には、マウス、ラット、ウサギ及びモルモットが含まれ得る。本発明の好ましい実施形態において、脊椎動物宿主細胞種はマウス(Mus musculus)である。]
[0018] 本発明の方法に用いられる脊椎動物宿主細胞は、任意の脊椎動物の器官に由来してもよく、但し、好ましくはリンパ球系列細胞に由来する。本発明に用いられる好ましいリンパ球はB細胞系列のものであり、これは、こうした細胞が抗体特異的なシャペロンタンパク質を発現することと、こうした細胞内では、Igα及びIgβなどの、抗体の細胞表面への固定を媒介するのに必要なアクセサリー分子が発現することとが理由である。より好ましくは、B細胞は前駆Bリンパ球であり、これは、プレB細胞がいかなる内因性抗体鎖も発現しないことが認められ得るためである。事実、本発明で利用されるものとして好ましいリンパ球は、いわゆる代替軽鎖の成分を含め、遺伝子λ5、VpreB1及びVpreB2によってコードされる内因性抗体ポリペプチドを発現することができない。従って、好ましいリンパ球は、B細胞特異的なIgα及びIgβ分子などの抗体分子の膜付着(membrane deposition)を促進するアクセサリー膜タンパク質は発現するが、しかし、いかなる内因性抗体ポリペプチドも代替軽鎖成分も発現しない。しかしながら、当該技術分野において公知の方法、例えば、こうしたタンパク質の発現ベクターを安定的にトランスフェクトすることにより、Igα及びIgβ分子を異所的に発現させることが可能であり得ることは留意されるべきである。本発明の好ましい実施形態において、抗体分子は、内因的に発現したIgα及びIgβタンパク質を介してリンパ球の細胞膜に固定され、これらのIgα及びIgβタンパク質は、マウスプレBリンパ球内では天然に発現する。]
[0019] 本明細書に開示される方法は、対象のリガンド又は抗原に対して所望の結合特性を示す細胞の単離、及び対象とする所望の結合タンパク質をコードする遺伝子の単離を可能にする手順を含む。本明細書に開示される、脊椎動物細胞内で抗体をレトロウイルスによって発現させる好ましい方法により、抗体の安定発現、好ましくはクローン発現が可能となり、当該技術分野において公知の、プラスミドベース又は組込みのないウイルスベースの代替的な脊椎動物発現系と比較して、抗体をコードする遺伝子の増幅、単離、及びクローニングが大幅に促進される。本開示の方法は、
(i)多量体結合タンパク質の少なくとも1本のポリペプチド鎖(例えば、抗体の重鎖等)をコードする少なくとも1つの発現コンストラクトの、少なくとも1本の対応するポリペプチド鎖(例えば、抗体の軽鎖等)をコードする少なくとも1つの発現コンストラクトとのシャフリングと、それによる機能的多量体結合タンパク質(例えば、抗体等)の生成、
(ii)インサイチュで脊椎動物細胞に導入したときの、少なくとも1つの結合タンパク質をコードする少なくとも1つの発現ベクターの体細胞突然変異、
(iii)インサイチュで脊椎動物細胞に導入したときの、V(D)J組換えとして公知のプロセスによる、少なくとも1つの発現ベクターに含まれる免疫グロブリン及び免疫グロブリン様分子の可変結合ドメインをコードするV(可変部)、場合によりD(多様性)、及びJ(接合部)遺伝子セグメントの体細胞組換え、又は
(iv)手順(i)、(ii)、及び(iii)の任意の組み合わせ、
のいずれかにより、インビトロで結合タンパク質の多様なコレクションを効率的に生成することを可能にする。]
[0020] 好ましい実施形態に従えば、少なくとも1本のヌクレオチド配列は、ある抗体重鎖配列と複数の抗体軽鎖配列とを含むか、又は−代替的に−ある抗体軽鎖配列と複数の抗体重鎖配列とを含む複数のヌクレオチド配列である。]
[0021] 別の好ましい実施形態に従えば、抗体又はその断片は可変結合ドメインを含み、このドメインは、レトロウイルス形質導入時に可変結合ドメインのコード配列を生成するためV(D)J組換えを可能にする少なくとも1つのレトロウイルス発現コンストラクトによりコードされる。]
[0022] さらに好ましい実施形態において、上記の方法のステップ(b)は、突然変異を誘発する条件下で、好ましくは、内因的に、或いは異所的に発現する活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)の発現を介して実施され、ここでAIDの異所性発現は、誘導可能な条件下で実施される。]
[0023] 上記の方法の一態様において、前記抗体又はその断片をコードする少なくとも1つのレトロウイルス発現コンストラクトは、その発現コンストラクトによってコードされる可変結合ドメインを標的としてAID媒介性の体細胞突然変異を生じさせることが可能なシス調節性のプロモーター要素とエンハンサー要素との組み合わせを含み、ここでプロモーター要素及びエンハンサー要素は、
(a)免疫グロブリン重鎖プロモーター要素、イントロンエンハンサー(EμH)要素及び3’αエンハンサー要素、
(b)免疫グロブリンκ軽鎖プロモーター要素、κイントロンエンハンサー(κiE)要素及び3’κエンハンサー(3’κE)要素、
(c)免疫グロブリンλ軽鎖プロモーター要素、λ2−4エンハンサー要素及びλ3−1エンハンサー要素、並びに
(d)それらの任意の機能的な組み合わせ、
からなる群から選択される。]
図面の簡単な説明

[0024] この図は、所望の抗原又はリガンドに対して特異的な抗体などの結合タンパク質の同定及び単離を可能にする「レトロ細胞ディスプレイ」の原理を示す。第1のステップにおいて、結合タンパク質の多様なコレクションの発現を生じさせることのできる少なくとも1つのレトロウイルス発現コンストラクトが、好適な脊椎動物宿主細胞(「選択用細胞(selector cell)」)に安定的に形質導入される。これは、少なくとも1つの結合タンパク質をコードする少なくとも1つのレトロウイルスベクターを、レトロウイルスパッケージング細胞にトランスフェクトすることにより達成され(ステップ1)、このパッケージング細胞は、レトロウイルスタンパク質Gag、Pol及びEnvを構成的に、又は一時的に発現し得る。その後、少なくとも1つのレトロウイルス結合タンパク質コンストラクトをトランスフェクトしたパッケージング細胞が、トランスフェクション後24〜72時間以内に、少なくとも1つのレトロウイルス発現コンストラクトを含む組換えレトロウイルス粒子を産生する。結果として生じるレトロウイルス粒子は、レトロウイルスパッケージング細胞の細胞培養上清に蓄積し、これを用いて好適な脊椎動物宿主細胞(「選択用細胞」)を形質導入することができ(ステップ2)、その後この宿主細胞が結合タンパク質を発現する。好ましい方法では、抗体又はその断片などの結合タンパク質は「選択用細胞」の細胞表面上に発現し、次に細胞は、所望の抗原又はリガンドで標識される(ステップ3)。次に、抗原又はリガンドの結合した細胞は、好ましくは蛍光活性化細胞分取(FACS)により分析され、好ましくは予備的な高速FACSにより特異的な抗原結合性を呈する細胞が非結合性細胞集団と分離される(ステップ4)。抗原反応性又はリガンド反応性細胞は、場合により組織培養で再び増殖させてもよく、及びレトロウイルス形質導入細胞は安定発現の表現型であるため、検出可能な抗原反応性又はリガンド反応性細胞集団が得られる時点まで、抗原特異的細胞分取と組織培養増殖とのサイクルを繰り返してもよい。この抗原反応性又はリガンド反応性細胞集団は、最終的な好ましい単細胞分取ステップに供されてもよく、又は集団ベースでの結合タンパク質コード遺伝子のクローニングに直接用いられてもよい。次のステップ(ステップ5)では、当該技術分野において公知の標準方法により、結合タンパク質ライブラリに対して特異的な、及び/又は他のベクター配列に対して特異的な配列と結合するプライマー対を用いるRT−PCR又はゲノムPCRによって、抗原選択的又はリガンド選択的細胞プール又は細胞クローンから、関連する結合ドメインのコード領域がクローニングされる。次に、場合により、クローニングし、配列決定した結合タンパク質のコード領域を、選択した任意の発現系において組換えタンパク質として発現させて、機能に関する特性決定をさらに行い、抗原又はリガンドに対する結合特異性を確認してもよい(ステップ6)。
(a)この図は、抗体又は免疫グロブリン及びその断片の概略的構造を示し、これらは開示される本発明に係る好ましい結合タンパク質である。図2a)はIgG抗体の概略的構造を示す(左)。IgG抗体は、特徴的なY字型構造を特徴として、2本の同一の免疫グロブリン(Ig)重鎖及び軽鎖からなり、重鎖及び軽鎖は、それぞれ、4つの免疫グロブリンドメイン(VH−CH1−CH2−CH3)及び2つの免疫グロブリンドメイン(VL−CL)を含む。Vドメインは、IgH鎖及びIgL鎖の高度に可変的な抗原結合領域であり、一方、CH及びCLドメインは定常領域ドメインに相当する。IgH鎖の可変領域ドメインは、V、D及びJ遺伝子セグメントによってコードされ、一方、IgL鎖の可変領域ドメインは、V及びJ遺伝子セグメントのみによってコードされ、これらの遺伝子セグメントは、V(D)J組換えとして公知のプロセスにより、初期Bリンパ球新生の間に生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子座から組み立てられる必要がある(図2b)及び2c)。抗体IgH鎖及びIgL鎖は、ジスルフィド架橋により共有結合で一体に保持される。ジスルフィド架橋は、可動性のヒンジ領域、すなわちCH1ドメインとCH2ドメインとの間に近い位置で同一のIgH鎖を共に連結し、一方、図示されるとおりの、CH1ドメインとCLドメインとの間のさらなるジスルフィド架橋が、IgH鎖とIgL鎖とを共有結合で連結する(図2a左)。Fab断片は、完全長抗体の一価の断片であって、天然のジスルフィド架橋により連結されるVH−CH1/VL−CLドメインのみを含み、これは、完全長抗体から酵素的なパパイン切断によって得ることもでき、又はCH2−CH3欠失IgH鎖をIgL鎖と共に発現させることにより、組換えタンパク質として発現させることもできる。完全ヒト抗体の別の断片は、単鎖可変ドメイン断片(scFv断片)であり、これは、合成リンカー又は人工的なジスルフィド架橋によって連結されるIgH鎖及びIgL鎖の可変領域ドメインのみを含む。完全長抗体、又は図示されるFab断片及びscFv断片のような抗体断片のいずれの発現も、本発明を実現するための結合タンパク質として発現させ得る。
図2b)は、生殖細胞系IgH鎖の対立遺伝子上で生じ、結果として抗体VHドメインのコード領域を組み立てるV(D)J組換えのプロセスを概略的に図示する。脊椎動物種におけるIgH鎖の可変ドメインは、複数のV、D及びJ遺伝子セグメントによってコードされ、これらの遺伝子セグメントは、生殖細胞系の配置では分離している。初期Bリンパ球新生のなかでV(D)J組換えが起こる間、1つの選択されたV、D及びJ遺伝子セグメントが部位特異的に再配列され、抗体VHドメインに固有のコード領域が生成される。IgH鎖の遺伝子座におけるV(D)J組換えは順序立てられたプロセスであり、通常、双方のIgH鎖対立遺伝子上での、ある特定のD遺伝子セグメントの、ある特定のJ遺伝子セグメントとの再配列から開始される。D遺伝子がJ遺伝子に対して再配列されて初めて、1つの特定のV領域が、既に組み立てられたDJ領域に部位特異的に接合し、それによりVHドメインをコードするV−D−J ORFが生成される。V(D)J組換えのプロセスは、前駆リンパ球特異的な組換え活性化遺伝子(RAG)1及び2の発現に依存する。
図2c)は、生殖細胞系IgL鎖の対立遺伝子上で生じ、結果として抗体VLドメインのコード領域を組み立てるV(D)J組換えのプロセスを概略的に図示する。脊椎動物種におけるIgL鎖の可変ドメインは、V及びJ遺伝子セグメントのみによってコードされ、これらの遺伝子セグメントは、IgH鎖の遺伝子座における遺伝子セグメントと同様に、生殖細胞系の配置では分離している。抗体VLドメインの生成は、図示されるとおり、ただ1つの部位特異的V(D)J組換え現象を必要とするのみである。
この図は、レトロウイルス形質導入によって抗体などの対象の結合タンパク質(BPOI)(或いは「X」で表される)を発現させるための標的細胞の安定的な遺伝子改変の原理を概略的に示す。図3a)は、野生型レトロウイルスゲノムの概略的な構成を図示し(左上)、ここで、構造及び機能タンパク質であるGag、Pol及びEnvの遺伝子は、レトロウイルスゲノムに隣接するいわゆる5’長末端反復(LTR)配列と3’LTR配列との間に位置する。5’LTRは、レトロウイルス遺伝子の発現に、及び感染宿主細胞内でのレトロウイルスゲノムの複製にも重要である。レトロウイルスゲノムにおけるもう一つの重量な領域は、Ψ(プサイ)パッケージングシグナルであり、これは、レトロウイルス粒子の複製及び/又は産生中、レトロウイルスRNAをパッケージングするために必要なものである。組換えレトロウイルス粒子を生成するには、野生型レトロウイルスゲノムから、gag、pol及びenv遺伝子が除去され、それにより5’LTR及び3’LTR及びΨ(プサイ)パッケージングシグナルのみが残され得る。次に、組換えレトロウイルスベクターを構築するため、いくつかの固有の、且つ好都合な制限酵素部位を含む多重クローニング部位(MCS)を導入することが好都合である。上/右に図示されるとおりのこの設計は、最も単純なレトロウイルス導入ベクターに相当する。5’LTR領域は、下流に位置する任意の遺伝子の発現を駆動することのできるプロモーター活性を有するため、抗体などの組換えタンパク質(例えば、対象の結合タンパク質(BPOI)「X」)を発現させることが可能な組換えレトロウイルスを発現させるためには、最小限、「空の」レトロウイルス導入ベクターにBPOIのオープンリーディングフレーム(ORF)を挿入すればよい。しかしながら、発現レベルを向上させるため、対象の遺伝子(例えば、BPOI−「X」)の発現は、場合により別の異種プロモーター(Prom.)によって駆動されてもよく、且つマーカー遺伝子を、例えば、ここに図示されるとおり、5’LTRプロモーター及びΨパッケージングシグナルの下流に任意に付加することにより、レトロウイルスで形質導入したコンストラクトの選択及び/又は追跡を可能としてもよい。
図3b)は、抗体などのBPOI−「X」の安定発現をもたらす標的細胞のレトロウイルス形質導入の手順を概略的に示す。そのためには、まず初めに、BPOI−「X」の発現カセットを含む組換えレトロウイルスコンストラクトを、レトロウイルスパッケージング細胞系(PCL)に一時的にトランスフェクトして、野生型レトロウイルスの構造及び機能レトロウイルスタンパク質Gag、Pol及びEnvを発現させる(左)。レトロウイルスPCLは、Gag、Pol及びEnvタンパク質の発現コンストラクトを、好適な、且つトランスフェクトが容易な細胞系(例えば、標準的なヒト293HEK細胞、又はマウスNIH 3T3線維芽細胞)に、安定的に、或いは一時的にトランスフェクトことによって生成することができる。トランスフェクションの2〜3日後、BPOI−「X」遺伝子を含む組換えレトロウイルスゲノムが、複製能のないレトロウイルス粒子にパッケージングされ、これはPCLの細胞培養上清中に蓄積する。これらのレトロウイルス粒子が複製能を有しないのは、それらに機能的なレトロウイルスのGag、Pol及びEnvタンパク質の遺伝子がなく、従って、その遺伝的なペイロードを標的細胞に1回しか送達することができないという、レトロウイルス形質導入、又はシングルラウンド感染と称されるプロセスのためである。レトロウイルス形質導入中、パッケージングされた組換えレトロウイルスのRNAは標的細胞に導入され、そこでcDNAに逆転写された後、標的細胞ゲノムに安定的に組み込まれる。その後、cDNAレトロウイルスコンストラクトが宿主細胞ゲノムに組み込まれることにより、レトロウイルス形質導入の2〜3日後、BPOI−「X」のような対象の遺伝子が、標的細胞によって永久的に発現する。
この図は、本発明を実現するために用いることのできる好ましいタイプのレトロウイルス発現コンストラクトの概略的な設計を示す。この図面は、標準的なDNAクローニングプラスミド骨格(閉じた黒色の線)に含まれるレトロウイルスベクターの概略的な設計を図示する;レトロウイルスゲノムに関連する遺伝子及び領域は強調表示される。ヒトIgγ1H鎖及びIgκL鎖のcDNAコード領域を含むある好ましいベクターの生成がパネル(a)に図示され、その詳細なクローニングは図5及び図6に示されるとともに実施例1に提供される。このcDNAコード領域は強力な構成的CMVプロモーター(Prom)により駆動され、且つ、IgH鎖及びIgL鎖のVコード領域に対する体細胞超突然変異を促進するIgκイントロンエンハンサー(κiE)要素と3’κエンハンサー(3’κE)要素とが、上流及び下流に隣接する。レトロウイルスIgH鎖及びIgL鎖の発現コンストラクトは、それぞれ、抗生物質耐性マーカーのハイグロマイシンB(hygroR)及びピューロマイシン(puroR)のオープンリーディングフレームをさらに含み、これにより、それぞれの抗生物質薬物選択を、レトロウイルスで形質導入した脊椎動物細胞の培養物に適用して、安定的に組み込まれたIgH鎖及びIgL鎖コンストラクトを選択することが可能となる。加えて、好都合な固有の制限酵素部位が強調表示され、これらは、HindIII及びEco47IIIによるVコード領域の直接的な置換、又は制限酵素HindIII及びNotIを用いることによるIgH鎖及びIgL鎖コード領域全体の置換を可能にする。このようにして、ある既存のIgH鎖又はIgL鎖発現コンストラクトから、種々のV領域、さらにはV領域の集合全体を本開示の発現ベクターに容易にクローニングすることができる。(b)このパネルには、可変部コード領域のDNA断片による置換を含む別のクラスの好ましいベクターが示され、ここで可変部コード領域は、V、D及びJ遺伝子セグメント(IgHコンストラクトについて)並びにV及びJ遺伝子セグメント(IgL鎖コンストラクトについて)になお分かれており、「準生殖細胞系」配置にある。その他の点では(a)に提供されるレトロウイルス発現ベクターと同一であるが、これらのV(D)J組換え能を有するレトロウイルスベクターは、IgH鎖又はIgL鎖の可変結合ドメインのコード領域を生成するために、まず初めに、V、場合によりD及びJ遺伝子セグメントの部位特異的再配列を受けなくてはならない。V(D)J組換え後のIgH鎖の発現を可能にする、かかるベクターの詳細なクローニングは、図11に示される。こうしたコンストラクトに固有の特徴は、V(D)J組換え活性細胞においてインサイチュで、例えば、内因性のRAG1及びRAG2タンパク質を発現する前駆リンパ球内で、多様なVドメインコード領域を生成するその能力である。V(D)J組換えのプロセスは厳密なものではないため、IgHについての所与のV、D及びJ遺伝子セグメント群、又はIgLについての所与のV及びJ遺伝子セグメント群のなかの個々の1つのレトロウイルスベクターから、可変部コード領域配列の多様なコレクションが生じ得る。V、場合によりD及びJ遺伝子セグメントの接合の多様性は、エキソヌクレアーゼ活性、TdT媒介性のN領域付加、及びPヌクレオチド生成という要因が組み合わさった結果であり、これらの要因が全て、個々に、又は合わさってコーディング接合部の多様化に寄与し得る。V、D及びJ遺伝子セグメントは、種々のV、D及びJ遺伝子セグメントファミリーメンバーを固有の制限酵素部位によって容易に置換することができるような形でクローニングされているため、生成して、V(D)J組換え能を有する宿主細胞に導入したコンストラクトの数が限られていたとしても、インサイチュで生成される結合タンパク質の多様性について、膨大な多様性をもたらすことができる。こうしたベクターは、V(D)J再配列されたVドメインコード領域に体細胞超突然変異をもたらす追加的なκiE及び3’κE要素を含むため、インサイチュで生成された多様な結合タンパク質の一次コレクションは、場合により、AID依存性の体細胞超突然変異プロセスによってさらに突然変異を誘発することができる。このようにして、本開示のレトロウイルスコンストラクトと、AID媒介性の体細胞超突然変異が活性であるか、又は活性化させることのできる、V(D)J組換え活性を呈する宿主細胞(例えば前駆リンパ球)とを用いて、インビボでの抗体多様性の生成プロセス全体をインサイチュ及びインビトロで繰り返すことができる。
(c)このパネルは、本発明を実現するために用いることのできるレトロウイルスコンストラクトのさらに別の設計を概略的に図示する。ここで、IgH及びIgLコード領域の発現は、レトロウイルス骨格の5’LTRプロモーターによって駆動されるとともに、IgH鎖及びIgL鎖の発現は、それぞれ、GFP及びYFP自己蛍光マーカーの発現に関連付けられ、これにより、単に形質導入細胞を緑色及び黄色蛍光について分析するだけで、IgH及びIgL発現細胞を追跡及び単離することが可能となる。こうしたコンストラクトは、さらなる標識手順なしに「選択用細胞」の感染多重度を制御できるため、極めて有用である。図4a)〜c)において、コンストラクトに含まれる重要なDNA配列について用いられている符号の凡例が提供される。図をより良く理解できるよう、IgH及びIgLコード領域は可変ドメイン(VH及びVL)ごとに細分化して提供され、全てが、内因性のリーダー(L)配列と、ヒンジ(H)コード領域と、定常コード領域(CH1、CH2、CH3、CL)と、膜貫通コード領域(M1/2、この領域は2つのエクソンによってコードされるため)とを含む。
図5a〜eは、レトロウイルスIgH(ヒトIgγ1アイソタイプ)発現ベクターを構築するためのクローニング戦略を示し、これは実施例1に詳細が開示され、図4(a)に基本的な設計が提供される。膜結合型IgG並びに分泌型IgGの双方の発現コンストラクトのクローニングが図示され、これは実施例1に詳述される−全体的な参照を目的として、プラスミドマップにおける固有の制限酵素部位が提供される。ここで図5eに開示されるとおりの最終的なレトロウイルスIgγ1H鎖発現コンストラクトに基づき、任意の他のVHドメインコード領域か、又は多様なVHドメインコード領域のコレクション(ライブラリ)を、固有のHindIII及びEco47III制限酵素部位を用いて、既存のVH領域を前記任意の他のVHドメインコード領域で置換することにより、ベクターに導入することができる。図5aは第1の予備クローニングステップを図示し、ここでは、実施例1に記載されるとおり、部位特異的突然変異誘発によって市販のpLHCXベクター骨格からEco47III制限部位(丸で囲まれている)が取り除かれる。これによりレトロウイルスベクター骨格pLHCXm1が生成され、ここでEco47III制限酵素部位は、VHドメインコード領域のクローニング及び置換のために、後に再導入され得る。こうした目的のためにEco47IIIを用いる利点は、Eco47IIIが、発現させたヒトIgγ1H鎖のアミノ酸組成を変化させることなく、ヒトVHコード領域とCγ1コード領域との間の境界に直接導入することができる唯一の制限酵素部位であるという事実に基づく。図5aは、膜貫通エクソンM1/M2を伴う、又は伴わないヒトγ1定常領域遺伝子のクローン断片を、pLHCXm1のMCSに存在する固有のHindIII及びClaI制限酵素部位を用いてpLHCXm1骨格にクローニングする方法をさらに示す。断片は、実施例1に詳述されるとおり、後にクローニングすることを目的として、隣接する追加的なEco47III及びNotI制限酵素部位を含むように設計した。
図5b)は、VHドメインコード領域をもたないクローン中間物のプラスミドマップを示し、HindIII及びEco47III部位に隣接する特定のVHコード領域をコンストラクトにクローニングする方法を示す。
このように生成されるこうしたコンストラクトは、図5cに図示されるとともに、原則的に、任意のレシピエント細胞系においてヒトIgγ1H鎖の発現をもたらすのに十分であり得る。
しかしながら、AID依存的様式でVHコード領域をさらに突然変異を誘発することが可能であることは本発明の一態様であって、2つのさらなるクローニングステップが開示され、そこでは、発現カセットのCMVプロモーターの上流の固有のBglII部位に、追加的な隣接配列を有するコアκiE要素がクローニングされ(図5c下及び図5d)、及びヒトIgγ1H鎖の発現カセットの下流の固有のClaI部位に、何らかの隣接DNA配列を有する3’κE要素がクローニングされる。
この結果、膜結合型又は分泌型のいずれかのヒトIgγ1H鎖の最終的な発現ベクターが得られ、これらについてのプラスミドマップが図5eに提供される。これらのコンストラクトは、図4aに既に開示した概略的なプラスミドマップに対応するが、但しここでは正確な制限酵素マップであり、尺度どおりに描かれる。
図6a〜dは、レトロウイルスIgL(ヒトIgκLアイソタイプ)発現コンストラクトの構築について、実施例1に提供される詳細なクローニング戦略を示し、コンストラクトの基本的な設計は、既に図4(b)に提供した。ここで図6dに開示されるとおりの、最終的なレトロウイルスIgκL鎖発現コンストラクトを基本として、任意の他のVLドメインコード領域か、又は多様なVLドメインコード領域のコレクション(ライブラリ)を、固有のHindIII及びEco47III制限酵素部位を用いて、既存のVL領域を1つ又は複数の前記任意の他のVLドメインコード領域と置換することにより、ベクターに導入することができる。レトロウイルスIgL鎖発現ベクターについてのクローニング戦略は、予備クローニングステップによって改変したレトロウイルスベクター骨格を生成する必要があり、その骨格に、図示されるとおりの好都合な制限酵素部位を用いて所望の要素がクローニングされ得る。第1のステップにおいて、市販のプラスミドpLPCXから、実施例2に記載されるとおりの部位特異的突然変異誘発によりΨ(プサイ)パッケージングシグナルの不要なEco47III部位を取り除き、結果として改変プラスミドpLPCXm1を得た(図6a)。
第2のステップにおいて、市販のプラスミドpLHCXからの大型のAscI−BlpI消化断片を、pLPCXm1からのAscI−NcoI断片とライゲートすることにより、新規のpLPCXm2骨格を生成した(図6b)。双方の断片について、適合性を有しないBlpI及びNcoI DNA末端は、実施例1に記載されるとおりクレノウ断片を用いてヌクレオチドで充填されていなければならなかった。結果として得られたpLPCXm2骨格に、図示されるとおり、HindIII及びClaIを介してヒトκL鎖の定常領域(Cκ)を挿入した(図6b)。
ヒトIgH鎖のクローニング戦略と同様に、さらなるクローニング手順を促進するため、ヒトCκ断片をさらにEco47III及びNotI部位に隣接させた。ヒトCκ断片の挿入後、固有のHindIII及びEco47III部位を介して、一つの選択されたヒトVκ要素をコンストラクトにクローニングした(図6c)。
このコンストラクトは、原則的に、任意のレシピエント細胞系にヒトIgκL鎖の発現をもたらすのに十分であり得る。しかしながら、IgH鎖発現コンストラクトの場合と同じく(図5a〜e)、追加的なκiE及び3’κE要素を、コンストラクトのなかの、IgH鎖コンストラクトのクローニング戦略と同じIgκL鎖発現カセットの上流及び下流の固有のBglII及びClaI部位にクローニングした(図6c及び6d)。最終的なコンストラクトにおいてもまた、次にVκドメインコード領域を、AID媒介性の体細胞超突然変異の標的とすることができる。最終的なコンストラクトは、図4(b)に詳解される概略的なプラスミドマップに対応するが、但しここには正確な制限酵素マップが含まれ、尺度どおりに描かれる。
この図は、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)のレトロウイルス発現コンストラクトについてのクローニング戦略を示す。図示されるとおり、市販のpLPCXレトロウイルスベクター骨格を用い、且つ実施例2に記載されるとおり、AIDコード領域を含むマウス脾臓cDNA由来の特定のRT−PCR断片を、PCR増幅プライマーに挿入した適合するXhoI制限酵素部位を用いて、pLPCXベクターの固有のXhoI制限部位にクローニングした。
この図(8aと、その続きの8b)は、IgκL鎖エンハンサー要素を含む、及び含まないレトロウイルスレポーターコンストラクトについての詳細なクローニング戦略を示し、これはまた実施例2にも提供される。
IgκL鎖エンハンサー要素は、定義されたEGFP終止突然変異の復帰突然変異によって体細胞突然変異の同定及び定量化を可能にする。
この図は、本開示のレトロウイルスベクターが、好ましくは抗体Vコード領域のように、Vプロモーター要素の下流にクローニングされた配列のAID媒介性の体細胞突然変異を可能にすることについての実験的な概念実証を提供する。パネル(a)は、レトロウイルスAID発現コンストラクトが安定的にトランスフェクトされた5つの選択されたFA−12 A−MuLV形質転換細胞クローンのウエスタンブロッティングによるAID発現の分析を示し、レトロウイルスAID発現コンストラクトのクローニングについては図7に図示した。ウエスタンブロット分析からは、FA−12トランスフェクタントクローン1〜4において約25kDの明確なAID特異的シグナルが示され、しかしトランスフェクタント5においては示されず、またトランスフェクトしていない陰性対照(NC)においても示されない。それ以降の、AID媒介性の体細胞超突然変異(SHM)用のレトロウイルスレポーターベクターの試験には、トランスフェクタント3を使用した。
この試験はパネル(b)に図示される:ここで、AIDを発現するFA−12トランスフェクタント3及びAIDを発現しないFA−12トランスフェクタント5に、図8のレトロウイルスレポーターコンストラクト(一回はIgκエンハンサー要素を含むもので、一回は含まないもの)をレトロウイルスで形質導入した。予想どおり、エンハンサー要素を含むレポーターコンストラクトを、AIDを発現するFA−12トランスフェクタントクローン3に形質導入したときにのみ、形質導入の10日後、0.2%の頻度で緑色の復帰突然変異体の形質導入体を検出することが可能であった。これらの0.2%の緑色細胞から、単細胞分取により100個の個別の細胞クローンを単離し、増殖後、これらのクローンを緑色蛍光についてFACSにより再度分析した。単細胞分取したクローンの大部分(95%)が一様な緑色蛍光発現を示し、その蛍光強度は、最初に分取した0.2%の緑色細胞の培地緑色蛍光シグナルと同じで、且つ図9bの左下のパネルに提供される代表的なGFP発現パターンと同様であったことから、元の緑色の集団がEGFP終止突然変異の復帰突然変異に起因したことが確認された。中央のFACSヒストグラムに典型的に図示されるとおり、4個のクローンが二峰性の緑色蛍光パターンを示し、単細胞分取した100個のクローンのうち1個のみが、ほとんどいかなる緑色蛍光も示さなかった(右側のFACSヒストグラム)。
この図は、体細胞超突然変異を定量化するためのEGFPレポーターコンストラクトをクローニングするために用いた、終止突然変異を操作されたEGFPコード領域の配列を示す。パネル(a)には、EGFPオープンリーディングフレームのコドン107及び108において4つのヌクレオチドが突然変異し、それによりコドン107に終止コドンが生じ、コドン108にリジンからスレオニンへのアミノ酸変化が生じたことが示される。これらの4つのヌクレオチド変化は、さらに、体細胞超突然変異時の終止コドン復帰突然変異の診断マーカーとして用いることができたことによって示されるとおり、結果として固有のSpeI制限酵素部位の導入をもたらした。TAG終止コドンのGヌクレオチドは、いわゆるRGYW配列モチーフに埋め込まれ、このモチーフは、体細胞超突然変異のホットスポットであることが知られている。SpeI制限酵素消化によって分析した24個の復帰突然変異体クローンにおいて、その部位がSpeI消化に対して耐性となった(従って、突然変異した)ことを確認することができた。これらのクローンのうちの10個において、配列分析から、元のTAG終止コドンのGヌクレオチドがCヌクレオチドに突然変異し、結果としてTACコドンになったことが明らかとなり、それにより制限酵素分析が裏付けられたとともに、AID媒介性の体細胞突然変異がRGYWモチーフのGを標的としていることが実証された。(b)このパネルは、突然変異EGFPのORF全体を示し、この突然変異EGFPのORFは、図5(e)に既に開示したレトロウイルスIgγ1H鎖コンストラクトに、VHドメインコード領域に代えてクローニングしたものである。
実施例4に詳細に開示されるとおりの、V(D)J組換え能を有するレトロウイルスIgH鎖発現ベクターの詳細なクローニング戦略の説明である。
実施例4に詳細に開示されるとおりの、V(D)J組換え能を有するレトロウイルスIgH鎖発現ベクターの詳細なクローニング戦略の説明である。
「準生殖細胞系」配置にあるV、D及びJ遺伝子セグメントのV(D)J組換えを必要とするレトロウイルスコンストラクトが、RAG1/RAG2陽性前駆リンパ球に形質導入されると、産生的に再配列された重鎖発現コンストラクト及びIg+細胞を生じ得ることについての概念実証。パネル(a)は、V(D)J組換え能を有するレトロウイルス発現ベクター(クローニングの詳細な説明は、図11を参照)をA−MuLV形質転換プレB細胞系230−238に形質導入した後の、表面免疫グロブリン陽性細胞の生成(0.04%、左のFACSプロットの右上象限)を示すデータを含む。免疫グロブリンの発現は、図4cに概略的に示されるとおり、コンストラクトを使用したEGFPの発現と関連付けられる。従って、免疫グロブリン発現細胞は、緑色の(すなわち安定的に形質導入された)細胞集団においてのみ生成され得る。右の染色パネルは、1回のFACS濃縮ラウンドと、微量の(0.04%)表面免疫グロブリン細胞の8日間にわたる組織培養による増殖とを行った後の、表面免疫グロブリン発現の再分析を示す。この1回の濃縮ラウンド後、免疫グロブリン陽性細胞の合計頻度は17.8%に上昇し(緑色の、すなわち安定的に形質導入された集団において検出可能であると予想されたとおり)、そこからPCRアンプリコンを得て配列決定した。(b).代表例として、このパネルは、「準生殖細胞系」のV(D)J組換え能を有するレトロウイルスベクターを形質導入した1回の濃縮ラウンド後の表面免疫グロブリン細胞に由来するPCRアンプリコンから得られたDNA配列(クローン225、上にアミノ酸翻訳を付す)を示す。参照として、(b)の上段に、V、D及びJ遺伝子セグメントのコード領域の配列を提供し、これもまた、V及びJ遺伝子セグメントの上にアミノ酸翻訳を付すが、Dセグメント配列は、V(D)J組換え後の接合の多様性に応じて3つの異なるリーディングフレームで読み取られ得る。「準生殖細胞系」配置のV、D及びJ遺伝子セグメント間に介在する配列は、点で表される。回収したクローン225の配列は、真正のV(D)J再配列イベントを明確に表し、組み立てられたV、D及びJ遺伝子セグメント間のコーディング接合部において、ヌクレオチド欠損及びTdT触媒によるN配列付加の典型的な特徴を明確に認めることができる(クローン225からは、全ての介在配列がなくなっている)。クローン225の配列はオープンリーディングフレームを示し、且つ、前述のコーディング接合部における変化を除いては、V、D及びJ配列にさらなる体細胞突然変異は含まなかった。
エコトロピックMLV由来のベクター遺伝子導入に対する感受性についての種々のA−MuLV形質転換マウスプレB細胞系のパネル試験を示すデータ。パッケージングされた、導入ベクターLEGFP−N1を包含するレポーター遺伝子EGFPを有するベクター調製物を用いて、0.5のMOIで1×105個の細胞を形質導入した。形質導入は、実施例5に詳述されるとおりに実行した。形質導入の2日後、FACSを用いてEGFPの発現により遺伝子導入を検出した。プレB細胞系18/81を除き、それ以外の試験したA−MuLV形質転換プレB細胞系の全てが、適用条件下に40〜60%の範囲の頻度で形質導入に対して感受性を有したとともに、これらは原則的に、本発明に使用することができる。処理していない未導入標的細胞を陰性対照として供し、これは緑色蛍光を示さなかった(図示せず)。
レトロ細胞ディスプレイの選択用細胞として用いることのできる、内因性のマウス抗体発現を欠く細胞を同定するための、内因性IgM重鎖(cy−μH)の細胞内発現についてのマウスプレB細胞系のパネルの特性決定。細胞を透過処理し、FITC(FL1)と結合させた抗マウスIgM重鎖抗体を使用して染色した。処理していない細胞を陰性対照として供した。この実験は、細胞系FA−12、1624−5、1624−6、18/81−cl8−11、及び40E1に内因性抗体発現が事実上認められなかったことを示し、従ってこれらは本発明の方法に使用することができる。
図4(c)に開示される設計に従うレトロウイルス発現ベクターの複雑度、及びIgH鎖及びIgL鎖をシャッフルした抗体ライブラリを生成するための実験原理の説明。(a)レトロウイルスベクターライブラリIgH(650)−LIB−IRES−GFP及びIgL(245)−LIB−IRES−YFPは、完全ヒト抗体の重鎖(HC)及び軽鎖(LC)のコード領域の定義されたコレクションを含み、それぞれ650個及び245個の完全に配列決定された異なるクローンの複雑度を有する。双方のベクターともパッケージング配列プサイ(Ψ)と、隣接する長末端反復(LTR)と、内部リボソーム侵入シグナル(IRES)とを含む。5’LTRにおけるウイルスプロモーターによって媒介される抗体ポリペプチド鎖の発現と同じく、IRESは、それぞれ、レポーター遺伝子gfp及びyfpを関連付けて発現することが可能である。これにより、選択用細胞にウイルスで遺伝子導入すると、形質導入に成功した、免疫グロブリン鎖を発現する細胞を、FACSを用いて好都合に検出及び濃縮することが可能となる。(b)形質転換プレB細胞における完全ヒト抗体のコレクションの生成。一時的なパッケージング細胞を生成するため、ヒト抗体の重鎖をコードするレトロウイルス導入ベクターライブラリのライブラリ(IgH(650)−LIB−IRES−GFP)を、パッケージングコンストラクト(pVPack−GP)及びエンベロープコンストラクト(pVPack−Eco)と共に好適なレシピエント細胞にコトランスフェクトする。トランスフェクションの2日後、パッケージングされたそれぞれの導入ベクターライブラリを有する生成されたベクター粒子ライブラリを回収し、選択用プレB細胞の形質導入に用いる。導入された重鎖及びレポーター遺伝子gfpを発現する形質導入細胞を増殖し、FACSを用いて濃縮する。増殖後、細胞は第2の形質導入に供する。このときは、IgL(245)−LIB−IRES−YFPライブラリを導入し、その後、FACSを用いてYFP及びヒト軽鎖を発現する細胞を増殖させて濃縮する。得られた集団は、1624−5細胞によって発現する定義されたヒト抗体ライブラリを示す完全ヒト抗体をなし、最大159’250個のクローンの複雑度を含む。
この図は、IgH−IRES−GFP及びIgL−IRES−YFPライブラリによる二段階形質導入が、形質導入を確実にする条件下でどのように実施され、その結果、形質導入細胞の大部分においてポリペプチド鎖のクローン発現が生じたのかを示す。1.5×106個の1624−5マウスA−MulV形質転換プレB細胞を、図15に既に示したとおりの、IgH鎖ライブラリIgH−LIB−IRES−GFP又はIgL鎖ライブラリIgL−LIB−IRES−YFPをそれぞれコードする組換えレトロウイルスベクターを含む種々の量のベクター粒子上清(1:1;1:5;1:20;1:50;1:100;1:200希釈)を補充した1mlの組織培養培地の中に懸濁した。形質導入細胞の大部分が宿主細胞ゲノムに組み込まれた導入ベクターの単一のコピーを受け取ることを確実にするため、10%未満の遺伝子導入効率(MOI<0.1、結合したGFP又はYFPレポーターの発現による検出時)を示す細胞を、感染4日後にFACS分取を用いて濃縮した。細胞を6日間増殖させ、上記のとおり、パッケージングされた抗体の軽鎖コード領域を有するベクター粒子を1:5希釈で用いて、第2の形質導入に供した。ここで、重鎖発現に関して選択したGFP陽性細胞に、IgL−LIB−IRES−YFPライブラリを形質導入するベクター粒子を感染させ、逆も同様に行った。感染後4日目、FACSを用いてGFP及びYFPを発現する形質導入細胞を濃縮した。約20%の細胞が、第2の形質導入後にGFP及びYFP発現を示した。1個の細胞につき唯1つのベクターの組込みが起こったことを確かめるため、集団の約3分の1を濃縮し、そこから、第2のラウンドにおいて形質導入されたレポーター遺伝子は低〜中程度しか発現しなかった(約8%)ことが明らかとなった。
レトロ細胞ディスプレイ実験に最適なIL−15抗原染色条件を実現する最適条件を定義するための、抗IL−15基準抗体を発現するプレB細胞の集団で染色したIL−15のFACSによる力価測定。実施例7に詳細に開示されるとおりの染色手順には、2.5μg/ml〜0.1μg/mlの範囲のIL−15抗原の力価測定が含まれ、これは、示されるとおりの2つの異なるポリクローナルビオチン化抗IL−15二次抗体濃度とし、FACSによりストレプトアビジン−PEコンジュゲートで検出した。表面Ig+細胞を抗IgκL鎖−APC抗体で対比染色した。見て分かるとおり、最適なIL−15染色は、0.1又は0.5μg/mlのIL−15抗原濃度で、3μg/mlの二次ポリクローナル抗IL−15抗体を用いて達成される。
プレB細胞系を発現する抗IL−15基準抗体(PC=陽性対照)のFACS同定の分析。これは、図17で説明及び決定された最適化IL−15染色条件を用いることにより、種々の希釈の抗体を発現するプレB細胞の多様なライブラリにスパイクした。左上のパネルは、IgH鎖ライブラリとIgL鎖ライブラリとの組み合わせを形質導入した対照プレB細胞のIgκL鎖−APC/IL−15二重染色を示し、これらのライブラリの生成は既に図16に示した(NC=陰性対照)。右上のパネルは、実施例7に詳細に開示されるとおり、基準IL−15抗体のIgH鎖及びIgL鎖をコードするレトロウイルス発現ベクターを形質導入したプレB細胞のIgκL鎖−APC/IL−15二重染色を示す(PC=陽性対照)。NC細胞のFACSプロファイルは、抗IgκL鎖−APC染色によって検出したとき、Abライブラリ形質導入細胞の約50%が表面Ig+であることを示している。しかしながら、表面Ig+細胞のなかに、IL−15との結合を示すものはない。対照的に、90%超の細胞が表面Igを発現したPC細胞は、x軸上の特異的シグナルにより、特異的なIL−15抗原結合が明らかである。予想どおり、PC細胞上での表面Igの発現が高度なほど、特異的IL−15シグナルへのシフトがより顕著で、表面Ig+/IL−15結合性細胞の斜めの染色パターンを生じ、これは、示されるとおり、楕円形のゲートによって強調表示される。下段のパネルは、NCランダム抗体ライブラリを発現する細胞集団にスパイクした5つの異なる希釈のPC細胞における表面IgとIL−15結合性とについての二重FACS染色を示すもので、特異的抗IL−15基準抗体を発現するPC細胞が、NC細胞ライブラリにスパイクしたPC細胞のパーセンテージに近い頻度で検出され得ることを示している。
実施例7に詳細に開示されるとおりの、多様な抗体ライブラリからのレトロ細胞ディスプレイによるIL−15反応性細胞集団の濃縮についての概念実証。上のパネルは、Ig−レトロベクター形質導入細胞の頻度の指標となるGFP/YFP発現(y軸)と、特異的IL−15染色の指標となるIL−15/抗IL−15−bio(x軸)とについてのFACS染色を示す。左上のパネルは、形質導入していない対照プレB細胞(NC=陰性対照)の二色FACS分析を示し、中央上のパネルは、陽性対照(PC)としての、抗IL−15基準抗体を形質導入したプレB細胞の二色FACS分析を示す。右上のパネルは、基準抗IL15抗体のIgH鎖をコードする、単一のIgH鎖をコードするレトロウイルスベクターを、7×104本超の異なるIgκL鎖の多様なライブラリと組み合わせて形質導入した細胞の集団の同じ二色FACS染色を示す。従って、このIgL鎖がシャッフルされたライブラリは、潜在的に7×104本超の異なる抗体を含み、且つ、予想どおり、右上のFACSプロファイルに示されるとおりの、抗体を発現し、且つIL−15反応性である細胞に対するさらに極めて狭いゲーティングにより、IL−15反応性細胞はほとんど検出できなかった(ここでは2.42%、示されるとおり、陰性集団に近いゲーティングによる)。濃縮した集団を組織培養で増殖させて、同一の染色手順及びFACS分取を3回繰り返し、これは、同一の条件下での3回のFACS染色についての下段の3つのFACSパネルに示されるとおりである。見て分かるとおり、連続的な濃縮/細胞増殖サイクルにより、抗体発現がほぼ100%陽性で、且つIL−15反応性について元のPC細胞系よりさらに多くが陽性となった細胞の集団が生じた。このデータは、FACS分取及び増殖を繰り返すことにより、抗原反応性細胞をほとんど検出不能な集団から、本質的に100%抗原反応性細胞の集団へと、レトロ細胞ディスプレイの3回の連続ラウンドを用いて高度に抗原反応性の細胞集団を濃縮することに成功し得ることを明確に示している。
この図は、図19に示されるとおり、3回のIL−15抗原濃縮を行った細胞集団から単細胞分取後に樹立した24個の個別の細胞クローンのうちの4個の代表的な細胞クローンについての特異的IL−15抗原反応性を示し、裏付ける。4個の選択された細胞クローンをクローンF、H、V及びWと命名し、その全てが、安定的に形質導入されたIgコードレトロウイルスベクターの指標となるGFP/YFP陽性細胞に対し、特異的IL−15反応性を示す。予想どおり、より高い抗体レベルを表すより高度なGFP/YFP発現の細胞ほど、より高いIL−15特異性を示し、Ig/IL−15二重染色において特徴的な斜めの染色シグナルをもたらした。全ての細胞クローンが特異的IL−15反応性を示した。これは、染色においてIL−15抗原を省くと、結果としてIL−15特異的反応性の消失に至る(図示せず)ことによって実証される。このデータは、当初は抗原反応性をほとんど検出不能な細胞を示す細胞集団から、高頻度で抗原反応性細胞クローンを得るのに、レトロ細胞ディスプレイが効率的な方法であることの概念実証を提供する。
この図は、抗原反応性細胞のレトロ細胞ディスプレイ濃縮の成功についての第2の概念実証を提供し、これは、初期細胞集団における最小限のIL−1β反応性細胞集団から開始し、レトロ細胞ディスプレイ細胞濃縮/組織培養増殖の3回の連続ラウンドを用いて、本質的に40%が抗原反応性である細胞集団へのIL−1β抗原反応性細胞の濃縮に成功したことを示すことによる。GFP/YFP発現(抗体発現の指標となる)についての二重染色及びIL−1β反応性が提供される。上段には、示されるとおり、形質導入していないプレB選択用細胞(陰性対照=NCとして、左上)と、抗ヒトIL−1β特異的基準抗体SK48−E26をコードするレトロウイルスベクターと共に同時形質導入した細胞(陽性対照=PCとして、右上)とについてのFACS染色が提供される。下段のパネルは、示されるとおり、且つ実施例8に詳細に開示されるとおり、1.2×105本超の個別のIgL鎖クローンの多様なIgL鎖ライブラリを、SK48−E26基準抗体のIgH鎖に対してシャフリングすることによって生成した抗体ライブラリについて、レトロ細胞ディスプレイ濃縮ラウンドを行う前(0回濃縮)並びに1、2及び3回行った後の、抗体発現についてのFACS染色と、IL−1β反応性とを示す。これらのデータは、レトロ細胞ディスプレイ発現及び濃縮が、抗原特異的細胞の集団を、当初はほとんど検出不能なレベルから濃縮する強力な手段であることについての、第2の抗原を用いた独立した概念実証を提供する。
この図は、実施例8に詳細に開示されるとおりのレトロ細胞ディスプレイによって同定された新規抗体のIL−1β抗原反応性の確認を示す。図21に示される3回濃縮した細胞集団から、単細胞分取によって24個の個別の細胞クローンを樹立した。これらの24個の細胞クローンから、実施例8に開示されるとおり、12個のクローンがLCB24と称される新規IgL鎖を有した。IL−1β特異的基準抗体SK48−E26のIgH鎖(実施例8を参照)と同時発現させた新規LCB24 IgκL鎖のIL−1β特異性について、クローニングし、且つ配列を特性決定したIgL鎖及びIgH鎖レトロウイルス発現ベクターを元の選択用細胞系に再形質導入した後、FACSにより分析した。FACS染色は、示されるとおり、二色FACSによる抗体発現(GFP/YFPを介した)及びIL−1β反応性の分析を示す。予想どおり、形質導入していない選択用細胞(NC=陰性対照、左)ではIL−1β反応性は検出されず、一方、基準抗体SK48−E26のIgH鎖及びIgL鎖を発現する陽性対照細胞(中央)では、明確なIL−1β特異的染色が検出される。同様のIL−1β特異的なシグナルが、SK48−E26基準抗体IgH鎖ベクターと、IL−1β特異的レトロ細胞ディスプレイ細胞クローンからクローニングした新規の完全ヒトLCB24 IgκL鎖とを形質導入した、抗体を発現する選択用細胞(右)において、検出可能である。
LCB24 IgkL鎖/SK48−E25 IgH鎖によってコードされる新規抗体がIL−15に対して交差反応性を有しないことの確認。左の2つのFACS染色は、示されるとおり、IL−15 FACS染色アッセイの陰性対照及び陽性対照を示す(NC=陰性対照、形質導入していない選択用細胞、PC=陽性対照、抗IL−15基準抗体をコードするIgH鎖及びIgL鎖ベクターを形質導入した選択用細胞)。右の2つのFACS染色は、SK48−E26 IgH鎖及びLCB24 IgL鎖からなる新規抗体をコードする抗体発現細胞に対しても、又は元のSK48−E26 IgH/IgLの組み合わせを発現する細胞に対しても、IL−15反応性がないことを示す。これは、SK48−E26 IgH鎖とLCB24 IgL鎖とからなる新規抗体が、IL−1βに対して特異的なだけでなく、概してIL−15のような他のタンパク質に対して交差反応性を有しない(すなわち、付着しない)ことを実証している。
この図は、実施例9に開示されるとおり、多様なIgL鎖ライブラリを多様なIgH鎖ライブラリとシャフリングすることにより生成された抗体ライブラリから、レトロ細胞ディスプレイ細胞濃縮/組織培養増殖の3回の連続ラウンドにより、ストレプトアビジン−APC−Cy7抗原反応性細胞の濃縮に成功したことを示す。ストレプトアビジン−APC−Cy7反応性細胞は、示されるとおり、高速細胞分取と、それに続く細胞培養物の増殖とのラウンドを3回連続して行うことによって濃縮した。抗体発現細胞のストレプトアビジン−APC−Cy7抗原に対する結合特異性は、抗原の存在下(下段のパネル)及び不在下(上段のパネル)で連続的に濃縮した細胞集団のFACSプロファイルを分析することによって実証される。これは、鎖シャフリング手法に用いられ得るいかなる基準抗体も存在しないなかでのレトロ細胞ディスプレイによる抗原特異性の効率的な濃縮についての概念実証を実証する。
この図に提供されるデータは、ストレプトアビジン−APC−Cy7タンデム色素のCy7蛍光色素に対する特異的反応性について、図24に開示される3回のレトロ細胞ディスプレイ濃縮を行った細胞集団の特異性の証拠を提供する。このため、示されるとおり、形質導入していない選択用細胞と、IgH鎖/IgL鎖ライブラリの組み合わせを発現する濃縮していない細胞と、3回のストレプトアビジン−APC−Cy7濃縮を行った細胞集団とを、抗体発現(GFP/YFP蛍光によって示される)及び種々のストレプトアビジン−蛍光色素コンジュゲートに対する反応性について、FACSにより分析した。3回のストレプトアビジン−APC−Cy7濃縮を行った細胞集団のみがストレプトアビジン−APC−Cy7と結合したが、ストレプトアビジン−APC又はストレプトアビジン−APC−Cy5.5には結合せず、また、選択用細胞又は多様な抗体ライブラリを発現する選択用細胞のいずれについても、ストレプトアビジン−APC−Cy7の非特異的染色を検出することはできなかった。これは、抗原特異的基準抗体由来の抗体IgH鎖又はIgL鎖を必要とすることのない、多様な抗体ライブラリを発現する細胞からの特異的抗体の効率的且つ高度に特異的なレトロ細胞ディスプレイ濃縮についての概念実証を提供する。
同じIgH鎖を共有する、レトロ細胞ディスプレイによって同定された2つの新規ヒト抗体は、抗原ストレプトアビジン−APC−Cy7との特異的結合を示す。実施例9に開示されるとおり、レトロ細胞ディスプレイ濃縮の3回のラウンド後、単一分取した細胞クローンから2本の異なるIgH鎖配列(HC49及びHC58)及び2本の異なるIgL鎖配列(LC4及びLC10)を同定することができた。この図では、標的抗原ストレプトアビジン−APC−Cy7との反応性について、IgL鎖LC4及びLC10の、HC49及びHC58との可能な全ての対を調べた。このため、示されるとおり、且つ実施例9に開示されるとおり、異なるIgH鎖及びIgL鎖をコードするレトロウイルス発現ベクターの組み合わせを選択用細胞に形質導入した。示されるとおり、新規抗体HC58/LC4及びHC58/LC10(双方とも同じIgH鎖を共有する)は、ストレプトアビジン−APC−Cy7抗原との特異的結合を示したが、一方、HC49/LC4及びHC49/LC10によってコードされる抗体は、特に著しい結合活性は示さなかった。2個の新規抗体クローンを選択用細胞に再び形質導入したときの、その抗原ストレプトアビジン−APC−Cy7に対する特異的結合性は、複雑度の高い抗体ライブラリにおける微量の抗体結合体の同定に、本明細書に開示されるとおりのレトロ細胞ディスプレイを用いることが可能であることの確定的な証拠を提供する。] 図10 図11a 図11b 図12 図13 図14 図15 図16 図17 図18
[0025] 用語
ここで、「及び/又は」は、本明細書で使用される場合、2つの特定の特徴又は構成要素の各々の、他方を伴う、又は伴わない明確な開示とみなすべきであることを指摘することが好都合である。例えば「A及び/又はB」は、(i)A、(ii)B、並びに(iii)A及びBの各々の、まさにここで各々が個々に記載されるのと同じ、明確な開示とみなすべきである。]
[0026] 親和性成熟:抗原刺激性のBリンパ球によって産生される抗体の結合特異性が抗原の駆動により向上する高度に調節性の免疫学的過程であり、主として胚中心で起こる。この過程は、概して、より高親和性の抗体を生成するBリンパ球の選択的な増殖及び生存に関連した抗体の可変ドメインのコード領域を標的とする体細胞超突然変異によって引き起こされる。]
[0027] 抗体:この用語は、天然であろうと、又は部分的若しくは完全に合成的に産生されたものであろうと、免疫グロブリンを示す。この用語には、例えばラクダ又はラマ由来の重鎖のみの抗体のような抗体抗原結合部位を含む任意のポリペプチド又はタンパク質もまた含まれる。完全長抗体は、2本の同一の重(H)鎖と2本の同一の軽(L)鎖とを含む。その単量体形態では、2本のIgH鎖と2本のIgL鎖とがまとまって対称なY字型ジスルフィド結合抗体分子を形成し、これは、IgH鎖の可変領域とIgL鎖の可変領域との組み合わせによって形成される2つの結合ドメインを有する。]
[0028] 抗体は、天然の供給源から精製によって単離し、又は得てもよく、或いは、遺伝子操作、組換え発現によって、又は化学合成によって得てもよく、ひいてはそれらは、生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子によってはコードされないアミノ酸を含み得る。完全ヒト抗体は、ヒト重鎖及び軽鎖、すなわちヒト種からの可変ドメイン及び定常ドメインを含む。キメラ抗体は、ある脊椎動物種由来の可変領域ドメインが、別の脊椎動物種の定常領域ドメインと組み合わされたものを含む。キメラ抗体の定常ドメインは、通常、1つ又は複数のヒト抗体に由来する。ヒト化抗体は、非ヒト抗体のCDRを、ヒト起源のIgH及びIgL可変ドメインのフレームワーク領域にグラフトすることによって産生することができる。]
[0029] 抗体断片:完全な抗体の断片は、抗原を結合する機能を果たし得ることが示されている。結合性断片の例は、(i)VL、VH、CL及びCH1ドメインからなるFab断片;(ii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片;(iii)単一の抗体のVL及びVHドメインからなるFv断片;(iv)dAb断片、これはVH又はVLドメインからなる;(v)単離されたCDR領域;(vi)F(ab’)2断片、2つの結合したFab断片を含む二価断片;(vii)単鎖Fv分子(scFv)、ここではVHドメインとVLドメインとがペプチドリンカーによって結合し、このペプチドリンカーにより、2つのドメインが結び付いて抗原結合部位を形成することができる;(viii)二重特異性の単鎖Fv二量体;及び(ix)「ダイアボディ」、遺伝子融合によって構築された多価又は多重特異的断片である。Fv、scFv又はダイアボディ分子は、VHドメインとVLドメインとを結合するジスルフィド架橋を取り込むことによって安定化させ得る。また、CH3ドメインと接合したscFvを含むミニボディが作製されてもよい。結合性断片の他の例はFab’であり、これは、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含め、重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端に数個の残基が付加される点でFab断片とは異なり、及び他の例はFab’−SHであり、これは、定常ドメインの1つ又は複数のシステイン残基が遊離チオール基を有するFab’断片である。ある場合には、重鎖又は軽鎖も、抗体断片とみなされ得る。当業者は容易に理解するであろうとおり、上記の抗体断片は全て、前記断片の由来元である未処理の抗体全体のうちの少なくとも1つの機能を示し、従って「機能的」断片と称される。]
[0030] 抗原:免疫グロブリン(又は抗体)の可変ドメインによって結合することのできる任意の生体分子又は化学物質。]
[0031] 結合タンパク質:この用語は、互いに結合する一対の分子のうちの一方のタンパク質を定義する。結合タンパク質の結合パートナーは、通常リガンドと称される。結合対のタンパク質は、天然由来であっても、又は完全若しくは部分的に合成的に産生されてもよい。一対の分子のうちの一方のタンパク質は、その表面上のある範囲か、又は空洞を有し、これは、一対の分子のうちの他方のタンパク質の特定の空間的な極性構成と結合し、従ってそれと相補的である。結合対のタイプの例は、抗原−抗体、ビオチン−アビジン、ホルモン−ホルモン受容体、受容体−リガンド、酵素−基質である。本発明は、好ましくは抗原−抗体タイプの反応に関する。]
[0032] 相補性決定領域(CDR):この用語は、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の超可変領域を指す。CDRは、抗原と直接接触を確立する免疫グロブリンの三次元構造領域である。抗体は、典型的には3つの重鎖CDRと3つの軽鎖CDRとを含む。CDRは通常、抗原受容体のなかで最も多様な部分である。]
[0033] ドメイン:特定の三次元構造によって特徴付けられる生体分子の構造的部分(例えば、免疫系の多くの分子に見ることができ、いわゆるIgスーパーファミリーに属するIg様ドメインなどの、構造的に関連性のある免疫グロブリンの可変又は定常領域ドメイン)。]
[0034] 胚中心:末梢リンパ器官(例えば、リンパ節又は脾臓)内の明確な組織学的構造であり、ここでは、抗原提示細胞間及び異なるTリンパ球集団間で同種の相互作用が起こり、結果として抗原反応性リンパ球が増殖的に拡大し、並びに抗原反応性Bリンパ球によって産生された抗体に親和性成熟及びクラススイッチ組換えが生じる。]
[0035] 生殖細胞系配置:遺伝子及び遺伝子座の、それらが親から受け継がれたとおりの、且つ生殖細胞系を通じて以降の世代に伝わるであろうとおりの再配列されていない配置。例えばリンパ球におけるV(D)J組換えのような、体細胞において起こるDNA組換え現象は、特定の遺伝子座上の遺伝情報の再シャフリング又は欠損をもたらし、従って生殖細胞系配置からの遺伝子の変化をもたらす。]
[0036] プレBリンパ球:前駆Bリンパ球は、特定の前駆B細胞特異的遺伝子、例えばλ5並びにVpreB1及びVpreB2遺伝子などの発現、及びV(D)J組換えに関わる前駆リンパ球特異的因子(例えば、RAG−1、RAG−2)の発現によって特徴付けられる。加えて、前駆Bリンパ球は、双方の重鎖対立遺伝子上のDJH又は少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖対立遺伝子上の少なくとも1つのVHDJH再配列の存在によって特徴付けられ、一方、軽鎖遺伝子座は、なお再配列されないままの生殖細胞系配置であり、従ってプレB細胞は完全な抗体を発現することができない。]
[0037] 一次リンパ器官:マウス及びヒトにおいて造血幹細胞からリンパ球を生じさせる器官、例えば、骨髄、胸腺、及び胎児期における肝臓。]
[0038] 「準生殖細胞系」配置:隣接する組換えシグナル配列が生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子座から人工的な遺伝子コンストラクトにクローニングされたV、場合によりD、及びJ遺伝子セグメントの人工的な配列構成であり、かかる人工的な遺伝子コンストラクトにおけるV、場合によりD、及びJ遺伝子セグメントの配列構成は、V(D)J組換えのプロセスによって遺伝子セグメントの可変部コード領域に部位特異的に組み換えることがなお可能である。]
[0039] 体細胞突然変異:結果としてゲノムの特異的領域に点突然変異が導入される体細胞内の過程。これが高頻度で起こるとき(塩基対当たりの細胞分裂当たり10−4回超の突然変異)、それは体細胞超突然変異として知られる。]
[0040] V(D)J組換え:これは、抗体及びT細胞受容体の多様性を生じさせるためのプロセスであり、機能的な抗体遺伝子を作成する方法である。これには、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖タンパク質をコードする多くの遺伝子セグメントの再配列が関わり、リンパ球内でしか起こらない。]
[0041] トランスフェクトする/トランスフェクション:真核細胞の文脈では、これは核酸配列を真核細胞に導入する過程であり、通常、化学的及び/又は物理的方法の利用を伴う。]
[0042] 形質転換する/形質転換:真核細胞の文脈では、これは、連続的に増殖し続ける細胞系を樹立するため細胞を不死化する過程である。]
[0043] 形質導入する:組換えウイルスの産生を介してDNAを脊椎動物細胞に送達する過程。このため、ウイルス粒子の構造タンパク質を発現するパッケージング細胞系に、ウイルスDNAコンストラクトをウイルス構造タンパク質にパッケージングするための調節要素を含む組換えウイルスDNAコンストラクトがトランスフェクトされる。これにより組換えウイルスが産生され、それを用いて(哺乳類の)標的細胞を感染させることができ、組換えウイルスゲノムにクローニングされた遺伝情報の導入がもたらされる。]
[0044] ベクター/コンストラクト:人工的に生成された核酸配列であり、これを用いて異なる生命体及び種の間で核酸要素を行き来させることができ、さらに、これを用いてゲノム情報を伝播、増幅、及び維持することができる。]
[0045] 抗体、又は免疫グロブリンは、最も広範なクラスの結合タンパク質であり、治療及び診断用途に特に有用であることが判明している。治療用抗体は、商業的に最も成功しているクラスの生物学的薬物として展開しており、抗体ベースの治療薬を開発するための新規の強力な方法は、常に有益である(Baker,2005)。]
[0046] 抗体は、ジスルフィド結合により共有結合する2本の同一の重(H)鎖及び軽(L)鎖糖タンパク質からなる(図2a)。各免疫グロブリン重鎖(IgH)及び軽鎖(IgL)ポリペプチドは、各抗体によって異なるN末端可変ドメインと、同じ免疫グロブリンサブタイプ(アイソタイプ)に属する異なる抗体間で同一のC末端定常領域とを含む(図2a)。IgH鎖の可変ドメインとIgL鎖の可変ドメインとの組み合わせが、抗体の抗原結合ポケットを作り出してその特異性を決定する一方、定常領域は抗体の免疫エフェクター機能を決定する。免疫グロブリンのその可変ドメインにおける多様性は、VH及びVLドメインが、V(可変部)、D(多様性)、及びJ(接合部)遺伝子セグメントと命名される複数の遺伝子セグメントによってコードされるという事実に起因する。Bリンパ球の分化中、1つのV、1つのD(IgH鎖の遺伝子座にのみ存在する)及び1つのJ遺伝子セグメントが各細胞においてランダムに選択されて、部位特異的に再配列され、それによりVH又はVLドメインのコード領域が生成される。この部位特異的遺伝子組換え過程は前駆リンパ球においてのみ起こり、V(D)J組換えとして公知である(Grawunder et al.,1998)(図2b及び図2cも参照のこと)。遺伝子セグメントの再配列は、組換え活性化遺伝子(RAG)1及び2産物によって媒介される。V、D、及びJ遺伝子セグメントは複数あり、且つ遺伝子セグメントの接合は不正確であるため、免疫系によって日々産生される何百万ものBリンパ球により、異なるV領域特異性の膨大なレパートリーが生じ得る(Grawunder et al.,1998)。免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、V、D及びJ遺伝子セグメントを含むため、抗体のVHドメインのコード領域は2つの逐次的なV(D)J再配列イベントを必要とするが、それに対し、免疫グロブリン遺伝子座にはD遺伝子セグメントがなく、VLコード領域は1つのVからJへの再配列イベントによって生成される(図2c)。従って、IgH鎖のCDR3領域においてV(D)J組換えにより生じる接合部の多様性は、IgL鎖についてただ1つの再配列イベントのみによって生じるCDR3接合部の多様性より大きい。加えて、その間にIgH鎖の遺伝子再配列が起こる初期のB細胞分化段階において、酵素の末端デオキシヌクレオチド転移酵素(TdT)が発現する。この酵素は、DのJとの、及びVのDとの接合部に、鋳型によらないヌクレオチドを付加することができ(いわゆるN配列多様性)、IgH鎖のCDR3レパートリーをさらに多様化させる。対照的に、IgL鎖のCDR3レパートリーは、B細胞分化のなかでより後期の、TdT発現が大部分下方制御されるときに、VがJ遺伝子セグメントと接合して形成されるもので(Li et al.,1993)、いくらか複雑度が低い。VH及びVLコード領域にCDR3の多様性が生じること以外にも、IgH鎖及びIgL鎖の双方のレパートリーは、T細胞依存性免疫反応の過程で成熟B細胞において引き起こされる体細胞超突然変異のプロセスによってさらに多様化し得る(Papavasiliou & Schatz,2002)。体細胞突然変異は、VH及びVLコード領域を特異的に標的化し、B系列特異的酵素である活性化誘導シチジンデアミナーゼ(略称AID、Papavasiliou & Schatz,2002を参照)によって媒介される。免疫化のなかで起こる体細胞超突然変異の結果として、免疫原に対してより高親和性の抗体突然変異体を発現する細胞が、主として胚中心で起こる免疫化の過程で積極的に選択され、結果としてより高親和性の抗体を産生する細胞が濃縮される。ここで、これらの抗体はCDR1及び2にも突然変異を蓄積し、これが、抗体レパートリーの親和性成熟と称される過程である。VH及びVLコード領域に対するAID媒介性の多様化及び特異的標的化は、シス調節遺伝子要素又はモチーフ、特に、再配列したVH及びVLコード領域の近傍に位置するIgH鎖及びIgL鎖遺伝子座のエンハンサー要素の存在によって著しく高まる(Bachl & Olsson,1999)。] 図2a 図2b 図2c
[0047] 古典的な完全長治療用抗体に加え、完全ヒト抗体の断片、例えば、いわゆるFab断片(図2a)、単鎖Fv断片(図2a)、単一のVHドメインのみからなるナノボディ等を含む別の形態の結合タンパク質もまた、治療用及び診断用薬剤としてますます研究されるようになっている。しかしながら、当業者には、かかる機能的な抗体断片が、タンパク質ベースの標準的な生化学方法によるか、又は所望の完全長抗体のコーディング情報が利用可能であるならば、従来の分子生物学的方法により、完全長抗体から容易に得られることは明らかである。] 図2a
[0048] 伝統的には、対象の分子又はエピトープ(抗原)に対するモノクローナル抗体は、小型の実験動物、又は家畜、例えば、それぞれ、マウス、ラット、ウサギ、又は、ヤギ及びロバを免疫化することにより生成される。繰り返し免疫化した後、動物は、ポリクローナル抗体をその血清から単離するため出血させるか、又は、モノクローナル抗体を生成するため、動物は屠殺され、それによりリンパ節又は脾臓のような二次リンパ器官からリンパ球が単離される。単離されたリンパ球を不死化骨髄腫細胞と融合してハイブリドーマが生成され、続いてそのハイブリドーマがサブクローニングされ、所望の機能特性、例えば、特定の抗原又は標的との結合を呈するモノクローナル抗体の分泌についてスクリーニングされる。]
[0049] 抗体工学における最初の技術躍進、すなわち、Koehler及びMilsteinによる、いわゆるモノクローナル抗体を生成するためのハイブリドーマ技術の開発(Koehler & Milstein,1975)から、ヒト疾患の治療にモノクローナル抗体を用いることができるようになるまでには、長い時間を要した。]
[0050] 抗体が臨床に登場するまでに時間がかかった主な理由は、ヒト患者の治療にげっ歯類抗体を用いたことに伴う当初の失敗であった。かかる抗体が患者の免疫系に入り込むと、免疫系はげっ歯類抗体を外来タンパク質と認識し、中和抗体の生成を含め、そうした抗体に対する免疫反応を開始する(HAMA=ヒト抗マウス抗体反応として知られる)。HAMA反応は、半減期、ひいては適用された抗体の効力の著しい低下につながり得るとともに、さらには、入り込んだ非ヒトタンパク質に免疫系が過剰反応すれば、重篤な副作用にもつながり得る。]
[0051] 従って、ヒト抗体に「より一層」類似した治療用抗体の開発には、医療上及び商業上、多大な利益があった。当初は、これは既存のげっ歯類抗体の遺伝子操作を用いて達成され、結果としてキメラ抗体、或いはヒト化抗体が開発された(Clark,2000)。キメラ抗体は、標準的な遺伝子操作及びクローン技術を用いて、げっ歯類抗体の可変結合ドメインをヒト抗体の定常領域と融合することにより生成される。ヒト化抗体は、対照的に、げっ歯類抗体由来の可変ドメインの相補性決定領域(CDR)のみをヒト抗体の可変領域フレームワークに導入することにより生成され、この導入もまた、標準的な分子生物学的技術によって行われる。キメラ抗体の生成手順は容易だが、これらの抗体はなお33%の異種配列を含み、免疫原性となる高い可能性を内包する(Clark,2000)。実際、キメラ抗体のマウス部分に対する免疫反応は十分に考証されており、HACA反応(HACA=ヒト抗キメラ抗体)と称される。]
[0052] 前記とは対照的に、ヒト化抗体が免疫原性となる可能性は一層低下する。しかしながら、ヒト化抗体を遺伝子操作すると同時に、CDRグラフト後にも元のげっ歯類抗体の結合親和性及び特異性を維持する手順は単純なことではなく、突然変異生成とスクリーニングとのサイクルを繰り返すことにより、さらなる全面的な最適化が必要となることが多い。上述の理由から、キメラ化及びヒト化手法は、近年では、治療用抗体の開発に選択する方法としてはあまり評価されないようになっている。]
[0053] 治療用抗体を開発するためのキメラ抗体及びヒト化抗体とは別の進展もまた、「完全ヒト」抗体の開発を可能にする革新的な技術プラットフォームの開発によって促進されており、この「完全ヒト」とは、アミノ酸配列がヒト血清抗体と同一であることによる。完全ヒト抗体は、理論的には、ヒト患者において免疫原性及び副作用が最も低いと考えられる。]
[0054] 2つの最も確立されている「完全ヒト抗体」開発プラットフォームは:
A)ヒト免疫グロブリントランスジェニックマウス技術、ここでは、生殖細胞系ヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子座の大型の導入遺伝子が、マウスゲノムに導入されている(Green & Jakobovits,1998;Jakobovits et al.,国際公開第98/24893 A2号パンフレット)。こうしたトランスジェニックマウスをヒト抗体の開発に用いるため、こうしたトランスジェニックマウス系統は、内因性マウス免疫グロブリン重鎖及びκ軽鎖遺伝子座に機能欠失を有する遺伝子ノックアウトマウス系統と交配されている。従って、こうしたヒト免疫グロブリントランスジェニックマウスは、免疫化すると、概してヒト液性免疫反応を開始する。但し、抗体産生細胞のほぼ半分はなお内因性マウスλ軽鎖を有するため、それらは以降の治療用抗体開発に使用することはできず、廃棄しなければならない。B)ファージディスプレイ技術、これは、大腸菌(E.coli)のバクテリオファージの表面上での、抗体断片(例えば、単鎖Fv又はFab断片のような)の高度に多様なライブラリの発現(ディスプレイ)に基づくものである(Clackson et al.,1991;McCafferty et al.,国際公開第92/01047 A1号パンフレット)。特異的結合体を同定するため、適当な複雑度、品質及び起源のファージライブラリを固定化した抗原と結合させ(「パニング」)、それにより固定化抗原と結合するファージクローンを濃縮する。数回のパニングラウンド後、選択された結合性クローンの配列が確定される。この方法の変形例は、完全に無細胞のリボソームディスプレイ技術であり、ここで抗体断片は、ファージに提示されるのではなく、翻訳された結合体がなおリボソームに「付着する」条件下でのインビトロ転写及び翻訳により発現される(Hanes & Plueckthun,1997)。ファージディスプレイ又はリボソームディスプレイのいずれについても、一つの非常に重要なステップは、結合性断片を操作して再び完全長抗体にし、次にこれを脊椎動物細胞内で発現させることである。これは、ファージ選択したクローンを操作して再び完全長抗体の形態にし、脊椎動物細胞で発現させた後、抗体が適切に発現できるかどうか、及び元のファージ結合特性がなお維持されているかどうか(これは必ずしも該当しないこともある)について分析する必要がある。]
[0055] ヒト免疫グロブリントランスジェニックマウス技術及びファージディスプレイ技術は、治療用抗体の開発に多大な影響を与えたが、双方の技術プラットフォームとも、それに関連する利点と欠点とを有する。]
[0056] トランスジェニックマウス技術の一つの利点は、こうしたマウスではインビボでの免疫化時に天然で親和性成熟が起こるため、高親和性抗体を送達できることであり、ヒトトランスジェニックマウスに由来する、所与の抗原に対するヒト抗体の親和性プロファイルが、野生型マウスと同等であり得ることが実証されている。しかしながら、ヒト免疫グロブリントランスジェニック動物に関連するいくつかの欠点として:
1)トランスジェニック動物が抗原に耐性を有する場合(これは、ほとんどの場合には、内因的に発現した宿主タンパク質と構造的に極めて類似していることに起因する)、かかる「保存された」抗原に対する高親和性抗体の生成は、結果として極めて困難か、又は不可能でさえあり得る。2)正常な野生型動物における場合と同じく、ヒト免疫グロブリントランスジェニック動物の抗体は、強力な抗原エピトープに対して選好的に生成され、従って、治療的価値のある、機能的だが弱いエピトープに対する抗体の開発は難題となり得る。3)最後に、ヒト免疫グロブリントランスジェニック動物は、既存の抗体の親和性を最適化するためには用いることができない。その理由は、トランスジェニック動物の生成に必要なタイムフレームが、1つの所与の抗体クローンを最適化するためだけとしては、長過ぎることである。かかる手法には、1つの特定の抗体について2つのIgH鎖及びIgL鎖トランスジェニックマウス系統の生成が関わり得るとともに、次に、これらの2つのトランスジェニック系統を、内因性免疫グロブリン重鎖及びκ軽鎖の双方の発現能を欠く少なくとも2つのノックアウト動物系統に対して遺伝的に戻し交配することがさらに必要となり得るが、これは、数世代にわたる系統育成と長いタイムフレームが必要なプロセスである。]
[0057] 上記と同じ制約が、最近報告されている技術プラットフォームにも該当し、これは、マウス免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子座の生殖細胞系可変部(V)、多様性(D)及び接合部(J)遺伝子セグメントが、部位特異的遺伝子標的法により、ヒト生殖細胞系V、D及びJ遺伝子領域(の各部)と置換されているマウスの開発に基づくものである(Murphy & Yancopoulos,国際公開第02/066630 A1号パンフレット)。こうした「免疫グロブリン遺伝子ノックイン」マウスでは、マウスのV、D及びJ遺伝子セグメントが、マウス生殖細胞系における相同組換えにより、ヒト免疫グロブリン遺伝子重鎖及び軽鎖遺伝子座のものと部位特異的に置換されている。従って、完全ヒト抗体を産生するヒト免疫グロブリントランスジェニックマウスと対照的に、このマウス系統は、マウス定常領域骨格にヒト抗原結合領域を有する「逆キメラ(reverse−chimeric)」抗体を産生する。]
[0058] ファージ及び/又はリボソームディスプレイ手法は、考えられる利点として、極めて高速の技術プラットフォームであることが挙げられ、これは、複雑度の高い結合タンパク質のライブラリからの最初の結合体の同定を、数週間以内で達成し得るためである。しかしながら、ファージディスプレイはまた、深刻な欠点も伴う。1)この系には親和性成熟が一切ないため、ファージ又はリボソームディスプレイスクリーンから高親和性の結合体を同定するのは、単純なことではない。この問題に対処するため、1012個超のクローンに相当する極めて複雑度の高いファージライブラリが開発されている。しかしかかる複雑度の高いライブラリを用いたとしても、最初の結合性クローンは抗原に対して最適以下の親和性しか有しないことが多く、かかる結合体は、通常、煩雑で時間のかかるさらなる最適化手順を用いて最適化する必要がなおある。2)ファージディスプレイでは、ファージゲノムが比較的小さいサイズの分子のコード領域にしか対応できないため、発現するのはscFv又はFab断片などの抗体断片のみである。3)結合タンパク質は、ファージgIIIタンパク質などのキャリヤータンパク質と融合させる必要がある。結果として得られる融合タンパク質は、その親の抗体又は結合活性タンパク質と比較して低い抗原反応性を示すことがよくある(Hoogenboom & Chames,2000)。4)ファージディスプレイが、ホモ及びヘテロ多量体形態の形成を通じて結合性の表現型を達成するタンパク質を制御された形で組み立てることは、例えば、二量体タンパク質は共有結合型のリンカー分子によって組み立てられざるを得ないため、容易に可能ではない。しかしながら、抗体工学の場合、あらゆる抗体重鎖がどの軽鎖とも対形成することができるわけではないため、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の適切に調節された組立ては必須である。5)細菌ベース又はバクテリオファージベースの系は、提示された対象のタンパク質の適切な翻訳後修飾(グリコシル化、ミリストイル化など)を提供せず、これは発現したタンパク質の結合特性に悪影響を及ぼすことが多い。6)原核生物の発現は、脊椎動物細胞と比較して異なるタンパク質のタンパク質フォールディングを生じ、これは、例えば、酸化還元電位及びシャペロンの欠如などの点で、細胞質環境が真核生物又は脊椎動物の宿主細胞と劇的に異なるためである。7)ファージ提示系は、続いて、極めて非生理学的な「パニング」条件下で抗原結合性又は捕捉性アッセイに供され、それにより反応性細胞が濃縮されるが、これは、高い割合の偽陽性結合体の同定につながり、最終的にはそうした偽陽性結合体を廃棄しなければならない。]
[0059] 上述の欠点の結果として、ファージ−ディスプレイ選択された抗体断片の多くは、親和性がそれほど高くなく、及び/又は構造的アーチファクトを抱え得る。加えて、ファージディスプレイ選択された結合体を再び操作して、脊椎動物細胞内で完全長抗体として発現させると、ファージ選択された抗体が発現不良となるか、若しくは全く発現できないか、又は結合特性の変化を呈することが起こり得る。]
[0060] ヒト免疫グロブリントランスジェニック/ノックインマウス技術及びファージディスプレイの制約のいくつかに対処するため、最近では、ヒト抗体を発現する細胞を生じるインビトロでの一次マウスプレB細胞の遺伝子改変と、それに続く機能的B細胞コンパートメントを欠く免疫不全レシピエントマウスへのグラフトが関わる代替的な技術が開発されている(Grawunder & Melchers,国際公開第03/068819 A1号パンフレット)。これにより、グラフトされたマウスにおいてヒト抗体を発現するB細胞サブセットの部分的な再構成が起こり、続いてこのマウスは、任意の所望の抗原又はリガンドによって免疫化され得る。この技術を用いて新規の抗体若しくは結合タンパク質を開発したり、又は既存の抗体を、所定の標的に対するその親和性に関して最適化したりすることができる(Grawunder & Melchers,国際公開第03/068819 A1号パンフレット)。]
[0061] この方法では、レトロウイルス発現系を用いることが好ましく、これは、発現コンストラクトの単一のコピーの遺伝子導入を個々のプレB細胞に導入することができる(Kitamura et al.,1995;Stitz J et al.,2005)ことが理由であり、また、どの抗体発現コンストラクトがマウスに対するグラフトに用いられるべきかについて(例えば、抗原が事前に選択された抗体ライブラリ、疾患を有する患者由来の抗体ライブラリ、又は個別の抗体クローン)、完全な選択の自由があることも理由である。従って、この技術の特定の利点は、抗体の新規開発、並びに既存の治療用抗体候補の最適化に適用することのできるその柔軟性である。]
[0062] 完全ヒト抗体を開発するための他のげっ歯類ベースの系が記載されており、それには、ヒトドナーから単離されたヒト造血前駆細胞を免疫不全マウスに移植することが関わる(Mosier & Wilson,国際公開第89/12823 A1号パンフレット)。かかるヒト細胞グラフトマウスでは、ヒトB細胞はある程度成長するが、しかしながら、近年のこの方法の改良(Traggiai et al.,2004)にもかかわらず、かかる「ヒト化マウス」においては、ヒト抗体の親和性成熟を含む満足のいく液性免疫反応は達成されない。加えて、ヒト免疫グロブリントランスジェニック又は「ノックイン」マウスの場合と同じく、既存の抗体は最適化することができない。]
[0063] いかなる種類のマウスベース抗体技術プラットフォームも、通常、インビボでの免疫化を必要とし、これは、インビトロ手法と比較したとき、依然として時間のかかる作業である。]
[0064] 従って、前述のマウスに関連する手法に加え、最近では、様々な代替的なインビトロ技術が開発されている。しかしながら、高品質で高親和性の抗体産物の開発に、これらの系がどの程度効率的であるかを、なお立証する必要がある。あるインビトロ系は、特定の疾患を有するヒト患者からの、抗原によって濃縮された記憶B細胞の単離に基づき、このB細胞は、単離され、次にインビトロでエプスタイン・バールウイルス(EBV)形質転換により不死化された後、抗原反応性EBV系列についてスクリーニングされ得る(Lanzavecchia,国際公開第04/76677 A2号パンフレット)。着想は同様だが、しかし方法論は異なるものとして、初めに急性疾患病態を患う患者由来の抗体産生形質細胞を末梢血から単離し、次に非産生性のヘテロ骨髄腫との融合によって不死化した後、所望の抗体産生についてスクリーニングする手法がある(Lang et al,国際公開第90/13660 A2号パンフレット)。或いは、ワクチン接種又は免疫化した個人からのB細胞の単離と、それに続く、細胞集団からの(Lawson & Lightwood,国際公開第04/106377 A1号パンフレット;Schrader,国際公開第92/02551 A1号パンフレット)、或いは単一細胞PCR(Muraguchi et al.,国際公開第04/051266 A1号パンフレット)による、特異的抗体遺伝子の単離及びクローニングを目的とする方法が記載されている。しかしながら、これらの技術はいずれも、ヒト患者における関連B細胞集団の利用可能性に依存し、その一般的な利用に関しては極めて限られているため、主に抗感染症治療用抗体候補の同定に用いられている。さらに、いずれのヒトB細胞ベースのスクリーニング手法でも、抗体の親和性成熟、若しくは抗原特異的な開発、又は既存の抗体の最適化は不可能である。]
[0065] 従って、最近では、さらなる代替的インビトロ方法が記載されており、これには、一時的な発現系を用いた真核細胞における組換え抗体の発現及びスクリーニングが関わる(Zauderer & Smith,国際公開第02/102855 A2号パンフレット及びBeerli et al,国際公開第08/055795 A1号パンフレット)。こうした系は、トランスジェニックマウス技術、ファージディスプレイ技術及びヒトB細胞に由来する技術のボトルネックの一部を解決するが、こうした系は、なお数多くの制約を特徴とする。第一に、公知の真核細胞ベースの抗体発現/スクリーニング技術は、組換え抗体に安定的な発現パターンをもたらさず、所望の結合特異性を有する抗体発現細胞の濃縮サイクルの繰り返しを避けることができない。第二に、真核細胞ベースの抗体発現が関わる公知の手法はいずれも、結合体クローンのクローン発現を制御することができず、従って、治療用抗体開発の場合には、所望の抗原又はリガンド結合活性を有するIgH鎖とIgL鎖との対応する対を同定することが難題となる。第三に、Zauderer及びSmith(国際公開第02/102855 A2号パンフレット)に記載される技術は、いかなるインビトロ突然変異生成も、又は発現した抗体の遺伝子組換えも不可能であり、この方法は、単にスクリーニング手順に過ぎない。従って、結合タンパク質の親和性成熟の側面は、この技術によっては対処されない。最後に、真核生物の発現/スクリーニング系はいずれも、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖V、D及びJ遺伝子セグメントのV(D)J組換えの機序を活用した、個々の抗体発現コンストラクトからのインサイチュでの多様な抗体レパートリーの生成と適合しない。]
[0066] Jensen et al(欧州特許出願公開第1 041 143 A号明細書)により、生物学的に活性なペプチド及び核酸を同定するための代替的方法が提案されている。欧州特許出願公開第1 041 143 A号明細書に記載されている好ましい方法は、個々の細胞が数多くの異なるRNA又はペプチドを発現することができるように、多数のレトロウイルスベクターが細胞に導入され得る初期スクリーニング手順を含む。続いて表現型の変化を示す細胞が単離され、当該クローンのレトロウイルスDNAがPCRにより単離される。次に、このPCR産物を用いてウイルスパッケージング細胞を再トランスフェクトし、さらなるレトロウイルスベクターを作成することができる。次に、これらのレトロウイルスベクターを用いて種々の細胞を形質導入することができ、最終的に、第2のクローニング手順後、活性物質を同定することができる。本質的に、この方法によると、生物学的に活性なペプチド又は核酸の移入によって細胞の表現型に間接的な変化がもたらされる。これは、レトロウイルスで形質導入したコンストラクトが結合タンパク質、好ましくは抗体を直接コードし、それがスクリーニングの対象となる本発明の方法とは対照的である。また、欧州特許出願公開第1 041 143 A号明細書に記載されるペプチド及び核酸は、本発明の方法によって同定される抗体又は抗体断片とはサイズが大幅に異なることも留意されるべきである。]
[0067] 別のレトロウイルスベースのゲノムスクリーニング方法が、国際公開第03/083075 A2号パンフレット(Bremel et al)に記載される。この方法は、特徴付けられていない遺伝子及びタンパク質をコードするゲノムDNA配列の発現及びスクリーニングに関する。ある細胞系にレトロウイルス発現コンストラクトを形質導入し、それによりゲノムDNAウイルスがプロウイルスとしてその細胞系のゲノムに挿入され、次にプロウイルスからのポリペプチドの発現を直接分析する方法が記載される。かかる方法は、細胞系を濃縮する機会も、また分析の実施前に発現したポリペプチドを単離及び同定する機会も提供せず、これはBremel及び共同研究者によって開発されたハイスループットスクリーニング技術を損なうものであり得る。]
[0068] Beerli及び共同研究者から最近公表された特許出願(国際公開第08/055795 A1号パンフレット)は、ヒト抗体を単離するためのスクリーニングプラットフォームについて記載しており、これはシンドビスウイルス発現系を利用する。このプラットフォームの本質的な特徴は、対象の抗原に対して特異的なB細胞が、ヒトドナーの末梢血単核球(PBMC)から直接単離される出発ライブラリの生成である。このB細胞のプールから組換えの抗原反応性scFvライブラリが生成され、シンドビスウイルス発現系を用いる哺乳類細胞表面提示によってスクリーニングされる。ファージディスプレイと同様に、この系の欠点の一つは、対象のscFvを再度操作して、脊椎動物細胞内で完全長IgGとして発現させなければならないことである。こうした抗体は脊椎動物細胞では良好に発現せず、及び/又は結合特性の変化を示し得るため、かかるプロセスは、変換時の対象抗体の親和性の喪失を伴い得る。]
[0069] 対照的に、本明細書に開示される本発明は、結合タンパク質、好ましくは抗体、又はその断片を開発及び最適化するための方法の、固有の、且つ極めて強力な組み合わせを含む。マウスベースの技術と比較して、本明細書に開示される本発明の主な利点は、抗体の最適化及び新規開発の観点における完全な柔軟性、並びに特異的結合体を短時間で同定する速さである。本発明の全ての態様はインビトロで実現されるため、種間で高度に保存されているか、又は実験動物において毒性を有し得る抗原に対する抗体の開発に関して、制約がない。]
[0070] ファージディスプレイベースの技術と比較して、本明細書に開示される本発明の鍵となる利点は、結合タンパク質、特に抗体が、脊椎動物細胞内、好ましくはBリンパ球環境、すなわち抗体の天然の宿主細胞内で完全長抗体として発現することができ、そのため最も自然で適切なタンパク質フォールディング、正しい翻訳後修飾、及び重鎖と軽鎖との対形成の質の制御が確実となることである。]
[0071] ヒトB細胞手法と比較して、開示される本発明の鍵となる利点は、任意の所望の標的に対する抗体の開発に関する完全な柔軟性、既存の抗体の親和性を最適化可能であること、その系においてどのタイプの抗体を発現させるか(抗原によって濃縮されたもの、合成のもの、患者由来のもの、IgH鎖及びIgL鎖シャフリングの条件下で、等)に関する完全な選択の自由である。]
[0072] プラスミドベースの発現コンストラクト又は組込みのないウイルスベクターのいずれかが関わる他の真核細胞ベースの発現系と比較して、「レトロ細胞ディスプレイ」の開示される本発明の鍵となる利点は、レトロウイルス遺伝子導入技術を用いることにより、安定的で持続的なクローン発現を実現できることである。標的細胞内で組換え抗体が安定的で持続的なクローン発現をすることにより、抗体遺伝子を同定するためのモノクローナル細胞の単離及び増殖が可能であることを含め、抗原特異的又はリガンド特異的細胞の反復的な濃縮サイクルが可能となる。さらに、本明細書に開示される本発明では、単一のレトロウイルスコンストラクトを用いたインサイチュでの脊椎動物宿主細胞へのレトロウイルス形質導入時に、V(D)J組換えのリンパ球特異的機序を活用するか、或いは体細胞超突然変異の過程を活用して結合タンパク質をさらに突然変異生成させることにより、さらなる遺伝的多様性を生じさせることがさらに可能である。]
[0073] 従って、当該技術分野において知られている治療用抗体を開発するための公知の技術のいずれと比較しても、本明細書に開示されるレトロ細胞ディスプレイ方法は、既存の技術が被る多くの顕著な制約に対し、独自の新しい強力な解決策を提供する。]
[0074] 本明細書に開示される本発明は、対象のリガンド又は抗原と特異的に結合する結合タンパク質の発現、スクリーニング及び同定に広範に適用することができる。本発明は、限定はされないが、単量体、ホモ又はヘテロ多量体の膜結合型受容体、例えば、T細胞受容体、サイトカイン、又はケモカイン受容体を含め、任意の結合タンパク質で、また、他の足場タンパク質でも実施することができるが、本発明に係る好ましい結合タンパク質は完全長抗体であり、完全ヒト抗体が特に好ましい。しかしながら、限定はされないが、単鎖Fv断片(scFv)、Fab断片、F(ab’)2、単一のVH若しくはVLドメイン、単一の重鎖若しくは軽鎖、又はそれらの任意の組み合わせを含め、任意の天然に存在する、又は人工的に操作された改変を伴う抗体の任意の(機能的)断片を用いて本発明を実現し得ることは理解されるべきである。完全長抗体に関しては、本発明は、特に、例えば、単に例示としていくつかの方法を挙げれば、部位特異的若しくは領域特異的突然変異生成、異なる抗体由来の天然に存在する配列の融合、CDR配列のランダム化、DNAシャフリング、エラープローンPCRによって生じさせた改変など、抗体結合領域のいかなる種類の人工的に操作又は設計された改変にも適用することが可能である。]
[0075] 本発明に係る結合タンパク質の発現に好ましい方法は、脊椎動物宿主細胞のレトロウイルスベクター媒介性の形質導入の使用である。]
[0076] レトロウイルスベクターの使用は、遺伝子治療の分野で長年にわたり調査されている。例えば、特定の細胞型を標的とすることのできるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを操作するため、Perabo et al.(国際公開第03/054197 A2号パンフレット)は、標的ペプチドをコードするランダム化配列を、ウイルスのカプシド遺伝子のなかの、一次細胞受容体との結合に重要な部位に挿入してAAVライブラリを作成しており、このAAVライブラリはウイルスカプシドのコンテクストでペプチドを提示した。培養環境によってもたらされる選択圧が、感染過程における各ステップ、すなわち、結合、取込み、脱殻、核転座、複製、及び遺伝子発現を完遂するウイルスクローンの能力による選択を駆動した。この技法を用いることにより、白血病細胞に効率的に形質導入するベクターが生成された。かかる技法は、それまで野生型AAVによる感染に対して耐性を有した標的細胞を感染させるウイルス突然変異体を生成するために有用であり得るが、これは、インビトロでの結合タンパク質の多様なコレクションの生成をもたらすものではない。]
[0077] そのため、結合タンパク質を発現させるための本願に記載される方法は、真核生物及び/又は脊椎動物宿主細胞内での組換えタンパク質の発現について、当該技術分野において公知の任意の他の方法に優るいくつかの鍵となる利点を有する。]
[0078] 1)組換えレトロウイルスコンストラクトは、宿主細胞ゲノムに安定的に組み込まれるため、安定的で持続的な発現の表現型の結合タンパク質をもたらす。2)「感染多重度」(MOI)と称されるレトロウイルス粒子の標的細胞との比として適当なものを利用し、好ましくは0.1以下のMOIで実施されることにより、レトロウイルス形質導入を制御することができ、それにより、レトロウイルス形質導入細胞の大部分が、宿主細胞ゲノムに組み込まれたただ1つの組換えレトロウイルスコンストラクトのみによって遺伝的に改変され、結果として少なくとも1つの所望の結合タンパク質のクローン発現が生じる。結合タンパク質のクローン発現は、個々の結合タンパク質の同定及びクローニングを大幅に促進するため、従ってこの態様は、本発明の好ましい実施形態に相当する。しかしながら、代替的実施形態において、本発明はまた、0.1より大きいMOIでのレトロウイルス形質導入を用いて実現されてもよい。]
[0079] レトロ細胞ディスプレイの基礎としてのレトロウイルス形質導入の前述の利点にもかかわらず、脊椎動物宿主細胞内での組換え結合タンパク質の発現は、代替的方法、例えば、限定はされないが、一時的若しくは安定的なDNAトランスフェクションか、RNAトランスフェクションにより、又はアデノウイルス若しくはポックスウイルスベースのベクターなどの、DNAベースのウイルスベクターの導入により、実現されてもよい−但し、前述の代替的方法はいずれも、脊椎動物宿主細胞内での結合タンパク質の安定的なクローン発現を、容易に制御可能な形で実現することはできない。]
[0080] 本発明の実現に好ましい脊椎動物宿主細胞は、Bリンパ球系列の細胞、特に前駆Bリンパ球であり、前駆Bリンパ球は多くの場合に内因性抗体発現を欠くが、好ましいアクセサリータンパク質、例えば、適切なタンパク質フォールディング及び抗体構築のためのシャペロン、又は抗体分子の膜付着を促進するアクセサリー膜タンパク質、例えば、B細胞特異的Igα又はIgβタンパク質を発現する。]
[0081] 脊椎動物宿主細胞内でのレトロウイルス形質導入による組換えタンパク質の発現の原理は、確立された手順であり、組換えレトロウイルスベクターの構築が関わる。組換えレトロウイルスベクターは比較的小型であり(組み込まれる組換えDNAの最大サイズ:8〜10kB)、且つ標準的な分子生物学的方法によりプラスミドベクターとしてクローニング及び操作することができ、このプラスミドベクターからレトロウイルスRNAゲノムが転写され得る。野生型レトロウイルスゲノムが含む遺伝子は、gagと、polと、envとの3個のみであり、これらはそれぞれ、核コアタンパク質と、レトロウイルスインテグラーゼ、プロテアーゼ、RNアーゼ、及び逆転写酵素と、エンベロープタンパク質とをコードする(図3a)。加えて、レトロウイルスゲノムは、レトロウイルスRNAゲノムのウイルス粒子へのパッケージングに必要なプサイ(Ψ)配列などのシス調節配列と、レトロウイルス転写終結のためのポリAシグナルと、最後に、いわゆるレトロウイルスの宿主細胞ゲノムへの組込みのためのプロモーター要素及びシグナルを含む5’及び3’長末端反復(LTR)とを含む(図3a)。組換えレトロウイルスを構築するため、野生型レトロウイルスのgag、pol及びenvコード領域が、プロモーター又はエンハンサーなどの関連するシス調節要素を含む対象の遺伝子用の任意の発現カセットに置換される(図3a)。かかる組換えレトロウイルスゲノムを宿主ゲノムに安定的に組み込むため、レトロウイルスゲノムを含むプラスミドベクターは、いわゆるレトロウイルスパッケージング細胞系(PCL)に一時的に、或いは安定的にトランスフェクトされなければならない。このPCLは、gag、pol及びenvによってコードされるウイルスの構造タンパク質を一時的又は安定的な形でトランス発現し、従って、組換えウイルスゲノム(導入ベクター)の、複製能を有しないレトロウイルス粒子へのパッケージングを可能とする(図3b)。こうしたレトロウイルス粒子では、標的細胞のシングルラウンド感染(形質導入)が可能である(図3b)。レトロウイルス粒子の標的細胞への侵入は、Envタンパク質が標的細胞上の特定の受容体と特異的に相互作用することによって媒介される。従って、Envタンパク質の性質が、同種の受容体を発現する特定の宿主細胞に対するレトロウイルス粒子のトロピズムを決定する。エコトロピックなレトロウイルスはげっ歯類細胞に限られ、アンホトロピックなレトロウイルスは、げっ歯類及びヒト細胞を含む様々な種に感染することができ、及びパントロピックなレトロウイルスは、あらゆる真核細胞膜上に存在する構造を介して細胞侵入が起こるため、細胞膜を有するいかなる複製細胞にも感染することができる。様々な異なるトロピズムを有するレトロウイルスベクター粒子はまた、単に例示としていくつか例を挙げれば、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)若しくはHIV及びSIVなどの他のウイルスの異種エンベロープタンパク質、又はさらには細胞膜タンパク質を用いても生成することができる−「シュードタイピング」として公知の技法である。細胞侵入後、レトロウイルスはウイルスゲノムを宿主細胞に送達することができ、そこでウイルスタンパク質の媒介によりゲノムがcDNAに逆転写され、最終的には宿主細胞ゲノムに安定的に組み込まれて、送達された遺伝子の安定発現が可能となる(図3b)。本発明の好ましい実施形態では、エコトロピックMLV粒子が、マウスB細胞への遺伝子導入の媒介に用いられる。しかしながら、当業者は、任意の他のエンベロープ又は膜貫通タンパク質でシュードタイピングした任意の感染性レトロウイルスベクターが、その親ドナー種、細胞型又はその発現と無関係な任意の適当な標的選択用細胞内において、ベクター細胞の侵入を媒介する同種受容体の形質導入を媒介するならば、それを本発明の実現に用い得ることを理解するであろう。] 図3a 図3b
[0082] レトロウイルスベクター媒介性の遺伝子導入を実現するため、導入ベクターを安定的に、或いは一時的に発現するパッケージング細胞の細胞培養上清から、ベクターを含むレトロウイルス粒子(組換えレトロウイルスゲノムの転写産物、又は導入ベクターを含む)が回収され得る(図3b)。これは、当業者に公知の広範なプロトコル及びその変形例により実行することができる。本発明の好ましい実施形態は、標的細胞の形質導入を可能とするため、以下を実施することができる:1)パッケージング細胞をベクター粒子と分離する適当なろ過ステップ又は遠心ステップのいずれかの通過を用いた、無細胞レトロウイルス粒子を含む上清の調製。こうしたレトロウイルス粒子の調製物は、その後、様々なタイムフレームで同時インキュベートすることによるか、又はいわゆる「スピン感染」を実施することにより、脊椎動物宿主細胞の形質導入に用いられる。ここで、標的細胞懸濁液が、培地を含むレトロウイルス粒子と混合され、低速遠心に供される(図3b)。2)或いは、レトロウイルス粒子の通過は許容するが、パッケージング細胞の通過は許容しない膜による、双方の細胞集団の細胞間接触又は分離を可能とする、標的細胞のパッケージング細胞との共培養。] 図3b
[0083] レトロウイルス形質導入のための宿主標的細胞として、本方法の好ましい実施形態は、内因性のマウス免疫グロブリンタンパク質を発現せず、且つエコトロピックな宿主範囲のレトロウイルスで形質導入することのできるげっ歯類由来のBリンパ球系列細胞を使用する。Bリンパ球系列の細胞は、膜結合型完全長免疫グロブリンの細胞表面発現及び固定に好都合なB細胞特異的Igα及びIgβタンパク質を既に発現しているという利点を有する。その点で、免疫グロブリン陰性形質細胞由来細胞、例えば骨髄腫細胞、例として、限定はされないが、Sp2/0、NSO、X63及びAg8653は、一般に膜免疫グロブリン付着のためのアクセサリーIgα及びIgβタンパク質をもたない。かかる場合、及びIgα及びIgβタンパク質を発現しない任意の他の脊椎動物宿主細胞においては、Igα及びIgβタンパク質の発現が当業者にとって標準的な手順でIgα及びIgβの発現ベクターのトランスフェクション又は形質導入時にもたらされるならば、本方法はなお適用され得る。従って、Igα及びIgβの双方のタンパク質を異所性発現させると、本方法は任意の脊椎動物宿主細胞系で実現され得るが、但しこれは、前記脊椎動物宿主細胞系を形質導入することのできる、適当なトロピズムを有するレトロウイルス粒子が産生されることが条件である。明確にすれば、パントロピックなレトロウイルス粒子(例えば、限定はされないが、VSVのGタンパク質によりシュードタイピングされた粒子)が、免疫グロブリンアンカー分子Igα及びIgβを異所的に発現するよう改変された宿主細胞と併せて用いられる場合、本明細書に開示される本発明は任意の脊椎動物宿主細胞で実現され得る。]
[0084] Bリンパ球系列の好ましい細胞は、例えば、限定はされないが、任意の脊椎動物種由来の、前駆B細胞、B白血病細胞又はBリンパ腫細胞であり、また、組織培養で長期間にわたり増殖させることのできる一次前駆B細胞もある。前駆Bリンパ球は、かかる細胞系の大部分が内因性の免疫グロブリンタンパク質を発現しないため、免疫グロブリンのレトロウイルス発現に理想的な宿主細胞であり得る。特に、マウスプレB細胞系のような細胞は、エーベルソンマウス白血病ウイルス(A−MuLV)で形質転換することにより、任意のマウス系統から容易に得ることができる。しかしながら、長期増殖型の一次プレB細胞、並びにA−MuLV形質転換プレB細胞のいずれも、プレB細胞特異的タンパク質のVpreB及びλ5を発現し、これらは合わせていわゆる代替軽鎖を形成する。代替軽鎖は、従来の軽鎖がないとき、免疫グロブリン重鎖と代替軽鎖とのプレB細胞受容体複合体を形成することができる。組換え重鎖及び軽鎖からなる免疫グロブリンを発現することが望ましいため、プレB細胞は、単一、二重又は三重遺伝子ノックアウトのいずれかとして、λ5、又はVpreB1、又はVpreB2遺伝子の遺伝子産物を含む代替軽鎖成分の発現を欠くものが好ましい。代替軽鎖は異種の重鎖と結合し得ることが知られているため、代替軽鎖の発現は、様々な程度でIgH/IgL対のスクリーニングを妨害し得ることが予想されるが、しかしプレB細胞における代替軽鎖タンパク質の発現レベルは概して低いため、本方法は、なお、代替軽鎖成分を発現する野生型プレB細胞を使用して実現することができる。要約すれば、Igα及びIgβを発現し、且つ内因性免疫グロブリンタンパク質を発現しない任意の脊椎動物細胞系を、本方法の標的宿主細胞として用いることができ、代替軽鎖欠損プレB細胞が、本発明の実現に好ましい宿主細胞である。]
[0085] 発現、スクリーニング、及び同定に好ましい結合タンパク質は、完全長抗体、及びアミノ酸配列上、完全にヒト型の免疫グロブリンである。しかしながら、脊椎動物細胞内での細胞発現が可能な任意の結合タンパク質が、本開示の方法に従い特異的リガンド又は抗原結合性についてのスクリーニング及び選択に供され得ることは理解されなければならない。例えば、かかる結合タンパク質としては、任意の脊椎動物種由来の抗体の断片、例えば、単鎖Fv、Fab断片(図2a)又は単一のVH若しくはVLドメイン、又は重鎖若しくは軽鎖を挙げることができ、これらは好ましくは細胞表面膜への付着が可能となる形で発現する。これは、例えば、GPIアンカードメインを利用して、他のI型膜貫通タンパク質の膜アンカーと融合することによるか、又は他の当該技術分野において公知の方法により実現され得る。さらに、本方法はまた、他の膜結合型タンパク質、例えば、限定はされないが、単量体若しくは多量体サイトカイン受容体、又は二量体T細胞受容体などにも適用可能であり得る。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖のレトロウイルス発現は、好ましくは、重鎖用及び軽鎖の別個のレトロウイルス発現コンストラクトを逐次的に形質導入することにより実現される。しかしながら、本発明はまた、標的細胞の同時形質導入を実施することによっても実現することができ、ここではIgH鎖及びIgL鎖の別個のレトロウイルスコンストラクトが用いられる。異なるレトロウイルスベクターからIgH鎖及びIgL鎖を別個に発現させると、免疫グロブリン重鎖の多様なコレクションをコードするレトロウイルスベクターのコレクションが、免疫グロブリン軽鎖の多様なコレクションをコードするレトロウイルス発現ベクターのコレクションとランダムに組み合わされ得るという利点がもたらされる。この、いわゆる重鎖と軽鎖とのシャフリングにより、重鎖及び軽鎖のコレクションの合計数が限られていても、種々の免疫グロブリン結合特異性の広範な多様性を生み出すことができる(例えば、104本の異なる重鎖を104本の異なる軽鎖とランダムに組み合わせると、理論的には108種の異なる抗体特異性が得られる)。IgH鎖及びIgL鎖ベクターのコレクションのシャフリングは、好ましくは片側シャフリングで実施され、これはつまり、抗体の1本のポリペプチド鎖が、単一の抗体鎖をコードする単一のコンストラクトであることを意味する。] 図2a
[0086] しかしながら、レトロウイルスIgH鎖及びIgL鎖の発現はまた、双方のタンパク質が同じレトロウイルス骨格上でコードされる場合にも実現され得ることは理解されるべきである(下記参照)。その最も簡単な構成では、重鎖及び軽鎖発現は、重鎖及び軽鎖cDNAを空のレトロウイルスベクターにクローニングすることによってもたらされ、この場合、発現は5’LTRのプロモーター活性によって駆動され、且つ適切なRNAプロセシングは3’LTR配列によって媒介される(図3a)。重鎖コンストラクトは、好ましくはその内因性の膜貫通コード領域を含むべきであり、それにより組換え免疫グロブリンの最適な膜付着が可能となる。しかしながら、当業者には、発現した改変免疫グロブリンの表面付着を確実にするため、他の膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインを抗体の定常領域と融合させてもよいことは明らかである。特に、抗体断片の発現、又は免疫グロブリン以外の結合タンパク質の発現に関しては、結合体の細胞表面発現には異なる膜結合型タンパク質の膜貫通領域が有利であり得る。] 図3a
[0087] 抗体又はその断片の細胞表面発現は本発明の好ましい実施形態であるが、或いはまた、これらの生体分子は、可溶性の分泌タンパク質として発現させて、従って抗体の検出が液相で実施されてもよい。かかる発現形態が有利となり得るのは、単一の産生クローン及び結合体のスクリーニングに可溶性抗体を必要とするアッセイが関わる場合か、又はアッセイが半流動培地で実施される場合であり、アッセイは、単細胞クローンに関する発現レベル及び結合特異性の定量化を可能にする。組換え免疫グロブリンの発現ベクターは、あらゆる既知の免疫グロブリン重鎖及び軽鎖アイソタイプをコードするものが用いられてもよく、完全ヒト抗体の場合、Igκ軽鎖又はIgλ軽鎖のいずれかを含む、IgM、IgD、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2及びIgE抗体の発現が可能となる。ヒト重鎖及び軽鎖のいずれのレトロウイルス発現ベクターにおいても、ヒト重鎖及び軽鎖の可変部コード領域のみが、固有の制限酵素、例えば、限定はされないが、レトロウイルス抗体発現ベクターの概略図に示されるとおり(4a及び4b)、HindIII及びEco47IIIを用いて置換され得ることが好ましい。これにより、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の定常コード領域に対してインフレームでの、V領域ライブラリ又は個々のV領域コード領域のいずれかによる、レトロウイルス発現ベクターにおける可変部コード領域のクローニング及び置換が容易に可能となる。単一の特異性をコードする発現ベクターの生成を目的とするか、或いは結合タンパク質のコレクションの生成を目的として、可変領域ドメインのみを交換するかかるスキームが好ましい。これに関連して、異なる種に由来する可変領域ドメイン及び定常領域ドメインを含む完全長抗体(キメラ抗体)を発現させてもよい。]
[0088] 結合タンパク質の最も単純なレトロウイルス発現ベクターは、対象の結合タンパク質又は遺伝子のcDNAコード領域を「空の」レトロウイルス発現ベクター骨格に挿入することにより、構築することができる(図3a)。形質導入細胞の直接的な検出を可能にする選択マーカー及び/又はスクリーニングマーカー(例えば高感度緑色蛍光タンパク質、EGFP)が一切なくとも、本発明は実現することができ、これは、分泌型又は膜結合型のいずれかの形態の結合タンパク質の安定発現に基づいて、レトロウイルスベクターから結合タンパク質を安定的に発現する細胞を同定及び単離することができるためである。しかしながら、レトロウイルス発現ベクターには様々な特徴が含まれることが好ましい。第1の特徴は、組換え結合タンパク質の発現を駆動する強力な構成的又は誘導性プロモーター要素であり、これはコーディングcDNA領域のすぐ上流に配置される(図4a、b)。かかるプロモーターは、例えば、限定はされないが、前初期CMVプロモーター、βアクチンプロモーター、EF−1αプロモーターなどの構成的プロモーターか、又はテトラサイクリン誘導性若しくは任意の他の抗生物質誘導性プロモーターなどの、テトラサイクリン若しくは他の抗生物質及びドキシサイクリンなどのその誘導体を付加若しくは除去することにより発現を上方制御又は下方制御し得る誘導性プロモーターであり得る。レトロウイルスベクター骨格によっては、5’LTRプロモーターが、或いは強力な構成的プロモーターでさえも、サイレンシングされ得ることが知られているため、レトロウイルス発現コンストラクトには誘導性プロモーター要素を含めることが、別の好ましい実施形態である。] 図3a
[0089] プロモーター要素に加え、レトロウイルス発現コンストラクトにマーカー遺伝子を含めることが好ましい実施形態である。マーカー遺伝子により、後に、組換え結合タンパク質を検出することなく宿主細胞の安定的なレトロウイルス形質導入を選択及び/又はモニタすることが可能となる(図4a、b)。選択及び/又はスクリーニングマーカーは、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖レトロウイルス発現ベクターの逐次的な形質導入が関わる好ましい二段階レトロウイルス形質導入プロトコルに特に有用である。二段階形質導入プロトコルでは、まず初めに、1本又は複数の第1の免疫グロブリンポリペプチド鎖をコードする少なくとも1つのレトロウイルス発現コンストラクトを脊椎動物宿主細胞に形質導入し、その少なくとも1本の第1のポリペプチド鎖が安定的に発現した後、1本又は複数の対応する他方の免疫グロブリンポリペプチド鎖をコードする少なくとも1つのレトロウイルス発現コンストラクトによる第2の形質導入を行い、次に、完全抗体又は抗体のコレクションを生成させる。第1の形質導入イベントの成功についての選択又はスクリーニングに選択又はスクリーニングマーカーが用いられる場合、これは、抗体のような多量体結合タンパク質の別個の鎖をコードする少なくとも2つのレトロウイルス発現コンストラクトの同時形質導入頻度を最適化するのに極めて有用である。従って、選択及び/又はスクリーニングマーカーの使用は極めて好ましい。]
[0090] 哺乳類細胞の選択に有用な抗生物質耐性を付与する選択マーカーとしては、限定はされないが、例えば、ピューロマイシン、ネオマイシン、ハイグロマイシンB、ミコフェノール酸、ヒスチジノール、ブレオマイシン、及びフレオマイシンに対して耐性の遺伝子が挙げられる。別個のレトロウイルスコンストラクトによってコードされた抗体のような多量体タンパク質を発現させるには、異なるポリペプチド鎖の発現を異なる選択マーカーと関連付けることが好ましく、それにより、対応する発現コンストラクトの安定的な形質導入について個別に選択することが可能となる。]
[0091] 宿主細胞へのレトロウイルス形質導入のモニタリングを可能にするマーカー遺伝子としては、限定はされないが、形質導入細胞に自己蛍光を付与する遺伝子、例えば、限定はされないが、緑色蛍光タンパク質(GFP)、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)及び赤色蛍光タンパク質(RFP)が挙げられる。或いは、CD7若しくはそのトランケート型変異体、CD34若しくはそのトランケート型変異体、又は低親和性神経成長因子受容体などの細胞表面マーカーが用いられてもよい。好ましい実施形態において、こうした抗生物質選択マーカー、蛍光マーカー又は細胞表面マーカーの発現は、いわゆる内部リボソーム侵入配列(IRES)を介した組換え結合タンパク質の発現と関連し、このIRESにより、脊椎動物細胞では、単一のプロモーター要素から2つの遺伝子が併せて同時に発現することが可能となる(図4b)。しかしながら、当業者はまた、別のプロモーター要素によって駆動される別個の発現カセットがレトロウイルスコンストラクトに含まれ、その発現カセットから選択及び/又はマーカー遺伝子を発現させることによっても、本発明を実現することができる。免疫グロブリンのような多量体タンパク質を別個のレトロウイルスベクターから発現させるには、種々の結合タンパク質鎖ごとに異なる選択及び/又はスクリーニングマーカーと連結されることが好ましく、それにより、種々の発現コンストラクトの安定的な形質導入を個別にモニタすることが可能となる。]
[0092] 上記に概説されるとおり、組換え結合タンパク質の発現が別個のプロモーターによって駆動される場合、任意の選択又はスクリーニングマーカー遺伝子は、5’LTRの下流並びに5’LTR及びΨパッケージングシグナルの下流にクローニングされ、従ってその発現が5’LTRプロモーターによって駆動されてもよい(図3及び図4を参照)。]
[0093] 上述されるとおり、本発明の好ましい実施形態は、Bリンパ球系列の細胞内、好ましくはプレBリンパ球内で組換え抗体又はその断片を発現することである。従って、組換え抗体の発現を、B系列細胞において選択的に高レベルな発現をもたらすことが知られているプロモーターとエンハンサーとの組み合わせによって駆動することがさらに好ましい。かかるプロモーター/エンハンサーの組み合わせは、例えば、限定はされないが、免疫グロブリンκ軽鎖プロモーターと、κ−イントロンと、3’κエンハンサーとの組み合わせ、又は免疫グロブリン重鎖と、重鎖イントロンと及び3’αエンハンサーとの組み合わせであり得る。免疫グロブリンκ軽鎖プロモーターと、κ−イントロンと、3’κエンハンサーとの組み合わせが好ましく(図4a、b)、これは、この組み合わせが、B系列細胞内での免疫グロブリン鎖の高レベル発現を可能にするとともに、シス調節遺伝子要素のこの組み合わせが、活性化B細胞特異的酵素AID(活性化誘導シチジンデアミナーゼ)によって媒介される調節的な様式での抗体のコード領域に対する体細胞超突然変異を促進可能であることが知られているためである。この体細胞超突然変異は、以下でさらに詳述されるとおり、本発明の実施形態である。]
[0094] しかしながら、当業者は、本発明を実現するためのレトロウイルスベクターにおける特定の組換え抗体の発現が、所望の脊椎動物宿主細胞内での抗体の発現を、細胞表面膜上で、或いは分泌形態で可能にするシス調節性プロモーター/エンハンサー要素とコード領域との任意の組み合わせによって生じ得ることを理解するであろう。]
[0095] 別個のレトロウイルス発現コンストラクトから抗体などの多量体結合タンパク質を発現させることが、本発明の好ましい実施形態であるが(図4a及びb)、本発明はまた、多量体結合タンパク質の異なるタンパク質鎖の発現が、同じレトロウイルス発現コンストラクトと関連している場合にも、実現され得る。免疫グロブリンの場合、これは、限定はされないが、1つのプロモーターからの重鎖及び軽鎖の発現、及びIRES配列による重鎖及び軽鎖のコード領域の分離によって達成され得る。この代替例では、重鎖をプロモーターのすぐ下流に、及び軽鎖をIRESの下流にクローニングすることが好ましく、これは、IRESに続く遺伝子が、多くの場合にIRESの上流の遺伝子よりいくらか低いレベルで発現することが知られているためである。軽鎖は小型の分子であるため、軽鎖の発現がIRESを介して制御される場合、IRES連結を介して発現される重鎖及び軽鎖の化学量論的発現が、より良好に実現されると予想される。]
[0096] 或いは、個々の各結合タンパク質鎖の発現が別個に制御されるように、2つの別個の発現カセットを単一のレトロウイルス骨格にクローニングすることにより、抗体などの二量体結合タンパク質の2本の鎖の同時発現が実現されてもよい。この手法の代替として、また、相反する方向への転写活性をもたらす双方向プロモーターを用いることにより、同じベクターにおける2本の異なる結合タンパク質鎖の発現を関連付けることも可能である。後者の選択肢は、近接したプロモーターの発現レベルに悪影響を及ぼし得るプロモーター干渉が起こらないという潜在的な利点を有する。]
[0097] 例えば免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖などの、2つの結合タンパク質コード領域を有するレトロウイルスベクターの詳細な遺伝子構成にかかわらず、この方法によれば、結合タンパク質対を標的細胞に単回でレトロウイルス遺伝子導入することが可能な点は強調されるべきであり、それにより二量体結合タンパク質のクローン発現の制御を促進することが可能となり、且つ、二段階レトロウイルス形質導入プロトコルと比較して、結合体を発現する細胞集団を生成するためのタイムフレームが短縮される。]
[0098] プロモーター及びエンハンサーなどのシス調節遺伝子要素、並びに抗生物質耐性マーカー及び自己蛍光タンパク質をコードする遺伝子などの選択可能又はスクリーニング可能なマーカー遺伝子に加え、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖のコード領域を、種々のコンテクストでレトロウイルス発現ベクターにクローニングすることができる。]
权利要求:

請求項1
所望の抗原又はリガンドに対して特異的な抗体又はその断片をコードする少なくとも1本のヌクレオチド配列を単離及び同定する方法であって、(a)抗体又はその断片をコードする少なくとも1つのレトロウイルス発現コンストラクトを脊椎動物宿主細胞に形質導入するステップと、(b)前記抗体又はその断片を前記脊椎動物宿主細胞内で発現させるステップと、(c)前記抗体又はその断片を発現する脊椎動物宿主細胞を、前記所望の抗原又はリガンドと結合するその能力に基づき濃縮するステップと、(d)前記レトロウイルスで形質導入し、濃縮した脊椎動物宿主細胞から、前記抗体又はその断片をコードする前記少なくとも1本のヌクレオチド配列を単離及び同定するステップと、を含む、方法。
請求項2
ステップ(d)の前に、前記濃縮した脊椎動物宿主細胞を組織培養で増殖させるステップがある、請求項1に記載の方法。
請求項3
ステップ(c)の後に、前記濃縮した脊椎動物宿主細胞を組織培養で増殖させるステップがあり、その後、請求項1に記載のステップ(c)が少なくとも1回繰り返される、請求項1に記載の方法。
請求項4
前記レトロウイルス形質導入が、0.1以下の感染多重度で実施される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
請求項5
前記抗体が完全長抗体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
請求項6
前記抗体の断片が、重鎖、軽鎖、単一のVHドメイン、単一のVLドメイン、scFv断片、Fab断片、及びF(ab’)2断片からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
請求項7
前記脊椎動物宿主細胞が、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、ブタと、ヒツジと、ウシと、ウマと、マウス、ラット、ウサギ、及びモルモットを含むげっ歯類とを含む哺乳類からなる種の群に由来する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
請求項8
前記脊椎動物宿主細胞がマウスに由来する、請求項7に記載の方法。
請求項9
前記脊椎動物宿主細胞がリンパ球である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
請求項10
前記リンパ球が前駆Bリンパ球である、請求項9に記載の方法。
請求項11
前記リンパ球が、内因性抗体ポリペプチド及び/又は少なくとも1つの代替軽鎖成分を発現することができない、請求項9又は10に記載の方法。
請求項12
前記脊椎動物宿主細胞が、内因性Igα及びIgβ分子を発現するか、或いはIgα及びIgβ分子を異所的に発現する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
請求項13
前記完全長抗体が、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、及びキメラ抗体からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
請求項14
前記少なくとも1本のヌクレオチド配列が、(i)ある抗体重鎖配列及び複数の抗体軽鎖配列、又は(ii)ある抗体軽鎖配列及び複数の抗体重鎖配列をコードする複数のヌクレオチド配列である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
請求項15
前記抗体が、レトロウイルス形質導入時に可変結合ドメインのコード配列を生成するためV(D)J組換えを可能にする前記少なくとも1つのレトロウイルス発現コンストラクトによりコードされる可変結合ドメインを含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
請求項16
ステップ(b)が、突然変異を誘発する条件下で実施される、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
請求項17
前記抗体又はその断片をコードする前記少なくとも1つのレトロウイルス発現コンストラクトが、前記発現コンストラクトによってコードされる可変結合ドメインを標的としてAID媒介性の体細胞突然変異を生じさせることが可能なシス調節性のプロモーター要素とエンハンサー要素との組み合わせを含み、前記プロモーター要素及びエンハンサー要素が、(a)免疫グロブリン重鎖プロモーター要素、イントロンエンハンサー(EμH)要素及び3’αエンハンサー要素と、(b)免疫グロブリンκ軽鎖プロモーター要素、κイントロンエンハンサー(κiE)要素及び3’κエンハンサー(3’κE)要素と、(c)免疫グロブリンλ軽鎖プロモーター要素、λ2−4エンハンサー要素及びλ3−1エンハンサー要素と、(d)それらの任意の組み合わせと、からなる群から選択される、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
請求項18
前記レトロウイルスで形質導入された脊椎動物宿主細胞における前記抗体又はその断片の発現が、(a)少なくとも1つの抗生物質選択マーカー、(b)少なくとも1つのスクリーニングマーカー、及び/又は(c)それらの組み合わせ、と操作可能に接続され、前記抗体又はその断片の発現が、少なくとも1本の内部リボソーム侵入配列(IRES)を用いて関連する、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
請求項19
前記少なくとも1つのスクリーニングマーカーが、(i)緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、及び青色蛍光タンパク質(BFP)からなる群から選択される蛍光タンパク質、又は(ii)CD7、CD34、及び低親和性神経成長因子受容体からなる群から選択される細胞表面マーカー、である、請求項18に記載の方法。
請求項20
前記抗体が二量体であり、そのレトロウイルスコンストラクトからの発現が、(i)1つの双方向性プロモーター、(ii)2つの別個のプロモーター、又は(iii)少なくとも1つの内部リボソーム侵入配列(IRES)と唯1つのプロモーターのみとを用いること、によって制御される、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
請求項21
前記濃縮ステップ(c)が、(i)蛍光活性化細胞分取(FACS)、(ii)顕微操作、又は(iii)固定化した抗原又はリガンドに対するパニング法、を用いて、細胞を非結合集団と物理的に分離することにより実施される、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
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